流域市町長を仲間にするための意見交換会

意見交換会の進行役を務めたのは森下祐一・部会長である。

筆者撮影
県地質構造・水資源専門の森下部会長

会議の冒頭から森下部会長は、川勝知事の唱えた「山梨県内の高速長尺先進ボーリングをやめろ」だけを問題にした。

森下部会長の主張は以下の通りである。

「JR東海は『調査ボーリング』と言っているが、目的は全く異なる。現在の不確実性を確実にする科学的データは得られない。このボーリングを行う必要はないと判断した」

「この調査ボーリングにより静岡県の地下水はどんどん抜けてしまう」

「山梨県側からのボーリングは、これまで県でも国でも議論していない新しい問題だ。山梨工区の先進坑が現在の位置で停止したとしても、静岡工区の工事を始めてから再開すれば十分に間に合う」

「静岡県の地下水が県外に流出するリスクを冒してまで県境付近で工事を進める意義はない」

「もし、それでも調査ボーリングをしたいということであれば、工事前の水抜きを目的としている」

森下部会長は静岡県の主張に従うよう、流域首長たちを説得する役割を仰せつかったことが丸わかりだった。

それだけでなく、「トンネル掘削のためにどうしてもボーリングをしたければ失われる水をリアルタイムで戻す方策とセットにして提案すべきだ」「その(セットとする)切り札は田代ダムからの取水を抑制する案だ」と“私案”を何度も押しつけて、何とか流域首長たちを味方につけようとした。

反対意見には耳を貸さず、部会の議題に

森下部会長の冒頭発言に対して、まず、島田市の染谷絹代市長が「『私は』という主語で語られていたが、個人的な見解なのか、専門部会の合意形成された意見なのか」とただした。

森下部会長は、周りに確認したなどと述べた上で、「『専門部会の意見です』と言うのはちょっとおこがましいので、『私の意見』というふうに申し上げた」と遠回しに「専門部会の意見」だと述べた。

ところが、会議の中で、丸井敦尚委員(地下水学)は「調査ボーリングには、もちろん水を抜く機能もあるが、地質を調べたり、断層がどこから始まるのかのほか、あるいは工学的に崩れやすいので掘ってはいけない、地下水としてはどんな水質、水温でどのくらいの量があるかなどを調べる機能がある」とJR東海と同じ説明をして、森下部会長の「調査ボーリングは水抜き」とする見解を否定した。

染谷市長らが「調査ボーリングはやる価値がある」などと反論すると、森下部会長は「それ(調査ボーリング)はいまやる必要はない。その方向性で、これから専門部会で、ぜひその問題に注力していきたい」などと勝手に専門部会の議題とするとしてしまった。