ベトナムを対中包囲網の一つの軸に位置付けたい
【大橋】バイデン大統領が出向いてそこまでしたのには、どういった思惑があったのでしょうか?
【エミン】もちろん、対中戦略強化のためにです。ベトナムと中国には長い歴史的な対立があります。いまでも緊張した関係にあるのです。
この半世紀を見ても、ベトナム戦争が終了して間もない1979年に、中国はベトナムに侵攻しています。鄧小平の時代ですね。
人民解放軍は1カ月でベトナム領から撤退して中国が敗北した形になりました。それでもしばらくは国境紛争が続き、中越の国交正常化は1990年になってからでした。
その後両国は経済関係が発展し、中国はベトナムの最大貿易相手国になりました。しかしながら一方で、南シナ海の南沙諸島の領有権問題では、現在でも激しく対立しています。
米国としてはベトナムを日本やインドと同じく対中包囲網の一つの軸として位置付け、大いに経済的支援を行おうと、目論んでいるのです。そこで、かつてのベトナム戦争のしこりを取り払うために、バイデン大統領が訪越し、「包括的戦略パートナーシップ」を手土産にしたのです。
半導体サプライチェーンの拠点に
【大橋】関係強化の影響は、どのように表れていますか?
【エミン】米国はベトナムと半導体産業で連携を強化し、中国に替わるサプライチェーンの構築を目指しています。
すでに、米国のアムコアテクノロジーがベトナム北部バクニン省に建設した半導体パッケージングに特化した工場が稼働中です。さらにはチップデザインソフトウェア大手のシノプシスが、半導体設計拠点と人材育成拠点をオープンすると発表しました。こうした背景もあって、今後のベトナムは新興国のなかでも突出して期待できそうです。