「日本でたった5%」国産小麦のパンにこだわる

満寿屋は帯広市を中心に十勝管内に7店舗を構える。売り上げは約10億円。創業は1950年。現社長の祖父が町のパン屋として始めた店を父(健治 故人)のと母(輝子)が発展させ、杉山は4代目になる。

撮影=プレジデントオンライン編集部
「麦音」の店内は開放的で、売場から厨房も覗くことができる。

彼は1976年の生まれだ。地元の高校を出て、鹿児島の第一工業大学へ進み、卒業後に渡米。アメリカン・インスティテュート・オブ・ベイキング(AIB アメリカ製パン科学研究所)でパンの製造を学んだあと、ニューヨークのベーカリーで修業した。帰国してから一時期、東京の製粉会社に勤め、その後、実家に戻り満寿屋に入社した。社長になったのは2007年のことである。

さて、満寿屋の特徴は、全7店舗で出しているパン200種類以上のすべてを十勝産小麦で作っていることにある。これは非常に珍しいことだ。なんといっても日本で販売されているパンのうち、国産小麦で作られたパンはわずか5%(業界の推定)しかない。

「世界で一軒だけのパン屋」と呼ばれる理由

農林水産省の食料需給表によれば国内の小麦消費量のうち、日本産小麦の割合は約5%。85%は輸入小麦である。そして「麦をめぐる最近の動向」(令和6年2月)によれば「国産小麦の使用割合は、日本麺用では6割程度を占めるが、その他の用途では1~2割の使用に留まっているところだ」という。つまり、国産小麦のほとんどはうどんで、パン・ラーメン用は少ないのである。

国内産小麦だけで全商品を焼いているパン販売店はいくつかあるが、売り上げが10億円に達する満寿屋はそのなかでも最大規模といえる。

まだある。満寿屋は小麦だけが国内産なのではない。パン材料のほとんどが地元の産物だ。水は大雪山や日高山脈の雪解け水だ。前述の通り、牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトはもちろん十勝産である。あんパンに使う小豆、豆パンに使う大正金時豆も十勝産。コロッケパンのじゃがいもやトウモロコシも地元の産品だ。

それだけではない。菓子パン作りに欠かせない砂糖、小麦を膨らます酵母もまた地元産なのである。砂糖や酵母まで地元の産品を使っているパン屋は非常に稀だ。「世界で一軒だけのパン屋」と称されることもあるが、それは砂糖、酵母まで地元で調達していることが大きな理由だから。

撮影=プレジデントオンライン編集部
人気商品のカレーパン。中に入っている牛肉も十勝産だ