価値基準のズレがトラブルメーカーを生む
もちろん、実績やスキルがあるのは、個人の努力の結果でありこの上なく素晴らしいことです。ただ、前職で営業の成約件数が多かったとしても、前職の仕組みや看板に基づいた成果だった場合、わずかに環境が変わるだけで、スキルだったはずのものが通用しなくなることもあります。
スキルと実績に惹かれて採用した人は、価値基準が合っているように見えたとしても、本音では共感していなかったり、会社が大事にしている考え方や仕事に対する姿勢が微妙にずれていたりするケースが少なくありません。そうした人は自分がうまくいかなくなった途端に、会社や経営陣の批判を始めたり、社内外でトラブルを起こしたりしがちです。
価値基準が同じ人なら、そうはなりません。入社したときに、一部の能力が求める水準に満たなかったとしても、同じ方向を向いて働いているうちに、一定水準のスキルは後からついてくることが多いのです。
1人の役員のせいで社員が大量退職
エッグフォワードが2023年に立ち上げたVC(ベンチャーキャピタル)の「GOLDEN EGG(ゴールデンエッグ)」では、多くの有望なスタートアップを支援しています。一定程度大きくなったスタートアップでも、自社の価値基準を言語化できていなかったり、会社のフェーズにあわせてアップデートできていなかったりすることはよくあります。
ある成長フェーズのスタートアップは、価値基準に合わない人が経営陣にいたことがきっかけで、組織全体が崩壊しかけていました。創業者は悩みのどん底にいました。
営業をリードするこの役員は、トッププレイヤーとして個人の数値成果は出すものの、会社の思想や、経営の価値観を度外視していました。効率だけを追求した結果、チームメンバーの半数近くに至るほど退職が激増していました。とはいえ、短期的に成果を出している以上、創業者は強く言うわけにもいきません。こうした中、組織は明らかに空中分解に向かっていました。
VCである私たちはまず、創業者と膝をつきあわせ、会社の価値基準を改めて言語化することから始めました。なぜこの事業を運営しているのか、どのような会社にしたいかを、徹底的に議論したのです。