養老孟子「虫に睡眠に関する遺伝子があるので…“意識”はある」
都内には近年、建立された虫塚もある。NPO法人日本アンリ・ファーブル会が運営する「虫の詩人の館(ファーブル昆虫館)」(文京区千駄木)の玄関脇に、「蟲塚」(高さ約90cm)が置かれていた。揮毫は同館館長で、フランス文学者の奥本大三郎氏によるものだ。2012(平成24)年に、会員有志の寄付によって建立された。
かつて多くの子どもたちは、野山に出て昆虫採集と、標本作りに没頭した。学校の理科の授業では、小動物の解剖実習があり、また夏休みの自由研究では、標本箱に入れたチョウやトンボの姿に目を輝かせたものだ。だが、近年では、学校や家庭から昆虫採集や標本作りが消えつつあるという。
昆虫採集や標本作りは、儚い生命の輝きを知る、絶好の教育の機会である。「死」と向き合う姿勢を通じて、「生」をリアルに感じることができる。
だが、教育現場では「殺生」「自然破壊」などと、拡大解釈し、教師や親が過剰に反応してしまい、昆虫との触れ合いが消えてしまっている。
そうした状況を同会の会員らは憂いた。そして、昆虫採集の復権を目指す目的で、この虫塚の建立の話が自然発生的に持ち上がったというのだ。もちろん、同館に展示されている標本昆虫の慰霊の目的もある。
毎年3月上旬の啓蟄(虫が這い出る頃)の時期に、奥本館長の誕生日祝いをかねて供養祭を実施しているという。
ユニークな虫塚の例としては、解剖学者の養老孟司氏が2015(平成27)年に鎌倉の建長寺に建立した虫塚がある。これは日本一、“洗練された”虫塚かもしれない。設計は建築家の隈研吾氏である。
虫塚はゾウムシの頭部を模った石像を中心に置き、周囲を金属製の虫かごが取り巻くモダンな意匠。金属部分には粘土が吹き付けられていて時の経過とともに苔が生していくという演出が込められている。周囲の石にはクワガタやトンボなどが透かし彫りされていて、実に楽しげだ。
養老氏は昆虫研究家でもあり、箱根の別宅には膨大な昆虫の標本が並ぶ。虫塚建立記念法要の挨拶文で養老氏はこのように述べている。
虫塚は全国各地にある。この一見、無意味に思えるモニュメントにこそ、人間の豊かな想像力をみることができる。この大型連休、ぜひ、自宅近くの虫塚を探しにいってほしい。