「自社では作りたくない部品」を作り続けた
90年代、同業他社の主要顧客はIBMやHPといったパソコン完成品メーカーだったが、TSMCの顧客にはこうした企業は1社も入っていなかった、とモリス・チャンは言う。
TSMCの主要顧客はTI(テキサス・インスツルメンツ)やインテル、モトローラといった自社でも半導体を製造している会社だった。「当時の半導体メーカーは、ほとんどの製品を自社製造し、ほんのわずかの、自分では作りたくない製品だけを外部に委託していた。だから我々は彼らを訪ねて、我々に作らせてほしいと頼んだのだ」。
ビジネスはこんな風にして始まったのだと、モリス・チャンは当時を振り返った。その後、時代の趨勢で、多くの新興企業がICを自社で設計して生産をTSMCに委託するようになった。TSMCはこの商機に乗って成長した。
残念ながら私たちは今も、たとえば「鑄矽」のような、「晶圓代工(ウエハー受託企業)」よりももっとふさわしい呼び名をTSMCに用意できていない。だがこれから、多くのマネジメント学部が「台湾で生まれたTSMCがグローバルな半導体産業のなかで、まったく新しいビジネスモデルをどうやって創造したか」を教えることになると信じている。
「人から受託業者と呼ばれようが、私は気にならない。我々はただ代金をもらい、ホクホクしながら銀行に行くだけだ」とモリス・チャンは言う。