「一番愛している」なんて、言葉だけならなんとでも言える

――ドラマの道長は「北の方(正妻)は無理だ。されど、俺の心の中ではお前が一番だ」とも言っていました。

【大塚】そんなこと、口先だけだったら、なんとでも言えますよ(笑)。

【辛酸】その場しのぎに聞こえますよね。現代でもよく、おじさんが不倫相手に言うセリフです。

【大塚】正直に言えばいいというものでもないし、こんなことを言っている時点で、まひろとしては信じられないですよね。いつの世にも、男性にはまず行動で示してもらいたいものです。

撮影=阿部岳人
大塚ひかりさん(撮影協力/ジュンク堂書店池袋本店)

もしセレブから「愛人になれ」と言われたら…

――実際には、下級貴族の娘が階級トップの男性から「妾になれ」と言われたら、どうしていたんでしょうか?

【大塚】もちろん、それに応じた女性もいたとは思います。

【辛酸】もし自分がそう迫られたら、絶対NOとは言えないですよね。自分の家が困窮し、相手がリッチだったら、悪くない話だと思うかもしれない。恋愛感情がなければ、たまに通ってくるくらいなら体力的にも負担が軽そうです。

撮影=阿部岳人
辛酸なめ子さん

【大塚】まひろの立場になれば「私と同じ受領階級の女性だって正妻になっているじゃないか」と思うでしょうから、そこに反発しただろうし、妻の立場もわりと流動的だったから、例えばたくさん娘を産んで正妻になったケースだってあるわけです。

【辛酸】なるほど、子どもの数が実績になるんですね。

【大塚】例えば、兼家の妻のひとり、『蜻蛉日記』を書いた藤原道綱の母は、道綱という男子ひとりしか産んでいない。だから正妻になれなかったけれど、それに対して時姫は息子も娘も複数、産んでいるわけです。当時の貴族たちは、娘を天皇や東宮に嫁がせ、外戚として権力をつかむことを目指していたので、妻にはまず娘を産むことが期待されていました。