若き日の紫式部と藤原道長は恋愛関係だったと描く大河ドラマ「光る君へ」(NHK)。『源氏物語』の現代語訳などの著作がある大塚ひかりさんとコラムニストの辛酸なめ子さんに、「道長は紫式部を正式な妻にできなかったのか」「実際には体の関係があったのか」などについて語ってもらった――。
『紫式部日記絵巻』より藤原道長(部分)
『紫式部日記絵巻』より藤原道長(部分)(画像=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

道長が紫式部を「北の方にはできない」と言ったのに違和感

――大河ドラマ「光る君へ」(NHK)では、主人公のまひろ、後の紫式部(吉高由里子)が、道長(柄本佑)と相思相愛となるも、まひろの身分が低すぎて、関白家の三男である道長との結婚をあきらめました。

【辛酸】道長には「妻になってくれ」と言われたものの、「北の方(第一夫人)にはできない」とも……。まひろは「しょうになれってこと?」とショックを受けていましたね。

【大塚】この流れ、ちょっと違和感はありました。というのも、道長の父や長兄の結婚という前例を見ると、道長は、その気さえあれば、また、まひろが優れた女の子でも産めば、まひろを北の方にできるはずなんです。

【辛酸】そうなんですか? かなり身分が違うのかなと思っていたのですが。

【大塚】紫式部の父、為時はのちに越後守となりますが、道長の兄・道隆も受領(今でいう県知事のような地方官僚)階級の娘、高階貴子を北の方にしていますし、そもそも道長の母親も、受領の娘である時姫。地方官僚というのはたしかに身分としては中流、下流だけれど、現地で強大な力を持ち、財を蓄えることはできた。だから、藤原摂関家のような上流階級との縁組みはあったんですね。

【辛酸】父と兄はそういう結婚をしたのに、と……。ドラマの中では、まひろが道長に「世を正すためまつりごとでトップに立って」と言ったから、道長としては「トップに立つためには妻もセレブでないと」という理屈なんでしょうか。

【大塚】そういうことなんでしょうね。ドラマの道長はそうでもないですが、史実を見れば、むしろ道長こそが誰よりも妻の身分にこだわり、女の力で出世しようとした野心家ですから。

もし現代の女性が「第一夫人じゃない」と言われたら…

――現代では考えられないシチュエーションですよね。好きな男性に「結婚してくれ。でも、君は第一夫人じゃない」と言われるのは。

【辛酸】いきなり「あなたは2号ですよ」と言われたわけですもんね。

【大塚】一夫多妻の時代なので道長には正式な妻が2人いましたが、「妾」と言われると、そういう周囲に認められた妻より一段下なのかと思いますよね。現代なら「お前はセフレだ」と言われるような感じでしょうか。

【辛酸】例えばデヴィ夫人(インドネシアの大統領スカルノの妻)は第3夫人で、自分の上に2人いるという立場ははっきりしていたけれど、この言われ方では……。

【大塚】単なるお手つき、それを「召人めしうど」と呼んだのですが、そのぐらいの扱いになってしまいそう。