音楽評論家で、サザンオールスターズの名付け親としても知られる宮治淳一さんにもエールを送った。宮治さんは桑田さんの市立小・中学校の同級生でもあり、茅ヶ崎FM(EBOSHIRADIOSTATION、通称エボラジ)のメーンパーソナリティーの一人である。
「神奈川県はコミュニティFMが多くの地域にあるけれど、茅ヶ崎には不思議となかった。そのことを桑田さんに数年前に話したら、あちこち働きかけてくれて、普通なら準備期間に数年かかるところを、一年半で開局にこぎつけた。デビュー45周年と凱旋ライブも意識していたのではないかな」。
茅ヶ崎FMの運営会社には、サザンオールスターズが所属する大手芸能事務所アミューズや、著作権管理会社であるタイシタレーベルミュージックも出資している。地域のコミュニティFMに大手芸能レーベルが関与する例は極めて珍しい。桑田さんは10月1日の放送開始にメッセージを寄せ、サザンオールスターズの曲が流れるプログラムが続いた。
コミュニティFМの本分の一つは、災害時の緊急連絡の確保にある。「そうした時に真っ先に聞いてもらうためにも、普段のプログラムを充実させたい」と宮治さん。音楽評論家として山下達郎さんら多くのミュージシャンの知己を得ている、宮治さんならではのオリジナル番組も企画しているという。
こうして「茅ヶ崎はサザン」の聖地になった
四日間のライブ期間中、茅ヶ崎では商工会議所を中心に、二つの市民企画が行なわれた。一つは会場の茅ヶ崎公園野球場まで徒歩10分ほどの「サザンビーチちがさき」でのキッチンカー出店。風によって球場のライブの音が流れてくるビーチでは、チケットを入手できなかったファンも集まった。
もう一つは、JR茅ケ崎駅から会場までの途中にある住宅街の緑地に設けられた休憩所だ。地域産品の販売と、仮設トイレ、ゴミ箱が設置された。四日間で延べ7万5000人が集まったが、特段の混乱はなかったという。
三度目の凱旋コンサート、地元商店街のあやかり商売、通りにはサザンにちなんだ標識と、茅ヶ崎はサザンの“聖地”のようになってきた。このことを宮治さんは苦笑いする。
「茅ヶ崎が音楽に縁が深いのは、もともと米軍基地『キャンプ茅ヶ崎』があって、加山雄三さんをはじめ、ミュージシャンが育つ土壌があったから。加山さんが、戦後初の本格的なシンガー・ソングライター兼俳優として、音楽シーンをけん引したのです」。
米軍基地があれば、FEN(Far East Network-極東米軍放送 現AFN)が流れていたはずだ。「加山さんの音楽の素養は、FENを聞いたことから培われたのではないでしょうか」と、茅ヶ崎市観光協会の新谷雅之事務局長はいう。