突拍子のない行動にも、ちゃんと理由がある

Yさんのご家族はほとんど面会に来られず、入居時以来、お供え物をしたことはなかったようです。Yさんは失語症でコミュニケーションを取りにくく、ちょっとしたことでも怒りやすい性格でした。そのため、大切にしている仏壇にはあまり触ってはいけないのだろうとみんなが思い込んでいたようです。仏具などが乱れていれば、そっと直しておく程度にとどめていたのですが、そこを改めました。

いつも仏壇をきれいにしておき、施設のおやつの余りなどをお供えするようにしたのです。

そうするとYさんは、ウンチを持ち歩いて職員に渡そうとしてくることをやめました。

認知症の方は突拍子もない行動を取ることがあります。

行動のひとつひとつにどんな意味があるのかを常に解き明かすことができるのかといえばなかなか難しい。でも、その人の微妙な表情の変化を見逃さないように気をつけながら部屋の様子などをよく観察してみれば、ヒントを掴めることはあります。

Yさんの件では、名探偵が事件を解決したように思ってくれた職員もいたようで、「部長、やるやんけ」というムードになりました。

いつもいつもこうしてうまくいくわけではありませんが、介護という仕事のおもしろさを実感できたエピソードです。

写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです

何度片付けても1時間後には荒らしてしまう女性

とにかく部屋を荒らしまくる女性Sさんがいました。

タンスから服などを引っ張りだしては投げ散らかしてしまうので、足の踏み場もないくらいになっていました。歩行器を押しながら歩いていた人なので、こけたりしないかと心配されて、目が離せない状態でした。

片づけのため、職員が掃除に入ると、「あれがなくなった、これがなくなった」と言われることが多いので、本人と一緒に片付けをします。部屋がきれいになると「ありがとう」と言ってくれるのに、1時間くらい経つと、また荒らしはじめます。

エンドレス状態でした。

部屋にある水洗トイレの便器の中でタオルを洗って手すりに干していることもありました。そんなときには、こっそり回収して、洗濯してから戻すのですが、タオルがないと怒られることもありました。

記憶障害が出ていた人なのに、タオルの枚数などは数えて覚えていたのです。モノへの執着は強かったんだと思います。

そのため、タオルを持ち出すようなときには、わからないようにやるか、ちゃんと説明するか、どちらかにする必要がありました。

気をまぎらわせる方法を探るため、趣味などはないかと家族に聞いてみると、「ショッピングが大好き」とのことでした。職員が1日がかりの外出に同行するのは難しいのですが、いちど試してみることにしました。