認知症の人は、驚くような行動をとることがある。そうした行動の背景にはなにがあるのか。介護福祉士のたっつんさんの著書『認知症の人、その本当の気持ち』(KADOKAWA)より一部を紹介する――。
先が4点に分かれているつえを持って歩く高齢者の足元
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

黒い物体を「っん!」と差し出してくる…

認知症の男性Yさんは、夜中にウンチを手渡そうとしてきます。やられる側にとってはショッキングで、精神的ダメージが大きなことです。

ウンチを差し出された職員が手袋をして受け取ろうとすると怒りだし、ウンチを持っていたYさんの手を洗おうとすると激しく抵抗されます。

みんな途方に暮れていたので、実態をつかもうと夜勤に入ってみました。その2日目のことでした。

明け方も近い4時頃、廊下の向こうから歩いてくる人がいました。右半身に麻痺があるため、右足を引きずって歩いているので、すぐにYさんだとわかりました。

近づいてきたYさんの左手には黒い物体が載っていました。まぎれもなくウンチです。それ、受け取れ、とばかりに「っん! っん!」と差し出してきます。

ほんまやったんか!

話には聞いていても、実際にこんなことをされたら誰でも驚きます。どういう意味があることなのかと聞きたくても、Yさんは失語症で言葉を話せません。

手袋をして受け取ろうとすると、やっぱり怒って取らせてくれません。いったいどういうことなのか?

何か意味があるのかなと考えながら、Yさんを部屋へ誘導しました。

仏壇を見てわかった、ウンチの驚きの意味

部屋の電気を点けて見回してみると、仏壇が乱れているのに気がつきました。少し前に巡回したときは普通の状態だった気がしたので、Yさんの顔を見ながら、「仏壇ですか?」と聞くと、うんうんとうなずきます。

「お供えってことですか?」という問いにも、やはり、うんうんでした。

「わっかりました!」と、ウンチを受け取ろうとすると、ぼくが手袋をしているのを見て、やはり怒ります。マジか……。

どうしても素手じゃなければならないのかと覚悟を決めて、手袋を外しました。左手を差し出すと、手の上にウンチを載せてきました。

ふだんから入居者の方々の下のお世話をしていても、あらためて素手にウンチを載せられてしまえば複雑な気持ちになるのは当然のことです。

そのウンチを、いいのかなと思いながら仏壇に供えると、Yさんはとても嬉しそうな笑みを浮かべました。

夜勤が明けて、朝出勤してきた職員たちにYさんの部屋の仏壇に関して気づいたことはなかったかを確認しました。

すると「そういえば仏壇が乱れてることがありました」との声を聞きました。