全員をつくる側に回らせる試み

大枠を決めたら、あとはスタッフに指示してディテールを詰めていく。その際に重視しているのが、副社長から部長、主任クラスの担当者までを集めた10人規模の会議である。作成途上の資料をプロジェクターで映しながら、その場で全員が意見を述べ、修正していく。

ふつうのプロセスだと、主任1人が文書をつくり、チェックする上司が3人もいたりする。これではエネルギーのロスが大きすぎる。本来は大人数で管理するのではなく、みんながクリエートするべきだ。私がやっているのは、全員をつくる側に回らせる試みともいえるだろう。

資料作成時の10人会議は、課長時代の指導法にルーツがある。

当時の仕事は、航空機の設計図を解析することだった。膨大な手間がかかる解析は、部下とともにチームで進めなくては間に合わない。そのときに、どのような意図で、どのような結果を出してほしいのかを過不足なく伝えるのは難しい。

私は当初、目的や意図を誤解なくスムーズに伝えるため、部下への詳細な「指示書」をつくるようにしていた。目的、期限、予算、参照すべき資料などを紙の上に列記し、どのようなアウトプット(計算書)を出してほしいかを明文化した。

ところが、どういうわけか十分に意図が通じない。部下が1週間もかけて作業をした結果が、私の指示とはかけ離れていたりする。考えてみれば、自分では完璧な指示書を書いているつもりでも、それを解釈し実行するのは部下である。そのことを私は計算に入れていなかったのだ。

そこで、別のやり方を編み出した。

「計算書をつくれ」と命じるのはやめて、「まず目的と成果を盛り込んだ目次案をつくってみなさい」と、射程の短い指示を出すことにしたのである。

部下は半日ほどで目次を提出する。私はそれをチェックして、やらせたいことと合致しているかどうかを見極める。そののちに、時間のかかる計算書の作成に進ませるのだ。

まずはラフな目次をつくらせ、早めに修正することでスピードと品質を確保する。これは中計の資料のつくり方と共通している。7割方の目次をつくり、細部を詰めながら全体の流れを修正する。最後にスタッフを巻き込み、質を高める作業を繰り返す。これこそが創造性を発揮する秘訣である。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 相澤 正=撮影)
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