そして介護施設を運営してはじめてわかったのが、家庭内と施設で仲間に囲まれた環境とでは、利用者の行動が変わることでした。家ではわがままで、自分で取れるものでも「あれ取って!」と家族に依存していた方が、施設ではみんなにいいところを見せようと、自分から積極的に取ってあげるようになるんです。

そんなふうに仲間や若いヘルパーと接して嬉しそうにしている姿を見ると、いくつになっても人間は周囲から必要とされることが力になるのだと感じます。だから私たちの施設では、利用者の方を甘やかしません。あえて「これをやってください」とお願いもします。

介護施設に両親を入れることに対し、抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、施設に入れてほったらかしにしているのではダメ。でも、そこで新しい仲間ができて両親がいきいきすれば、親と子の新しい会話のネタも増え、それはそれで親孝行になるのです。

がんになったのをきっかけに、私は同居している両親との会話がとても増えました。以前なら仕事で疲れて帰宅した後は、「うるさい!」と言って話なんてしなかったかもしれません。

今は帰宅すると父が一生懸命話しかけてくるので、「はい、はい」と言って聞いています。介護でストレスがたまっている母からは父への愚痴が始まるので、それも聞きます(笑)。

そんな他愛のない会話が、2人にとっては楽しみになっているようです。私は両親と同居をしていますが、離れて住んでいるのであれば、定期的に電話をして話を聞いてあげてください。

人生の残り時間、私は家族みんなで毎日笑って暮らしていきたい――。そういう気持ちで両親と接することが大事だと思います。誰だって明日、何が起きるかわからないんですから。

親孝行といって、旅行に出かけたり、プレゼントをしたりするのもいいと思います。でも、日常の細部に潜んでいる幸福に目を向けることが大切ではないでしょうか。

参議院議員 三原じゅん子 
1964年生まれ。女優・歌手として活躍。両親の介護、自身の病気をきっかけに2010年3月、東京・三鷹に介護施設をオープン。
(構成=宮内 健 撮影=市来朋久)
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