階層ごとのニーズに着目したGM
しかし、人々の所得水準が上がるとさまざまな欲求が芽生えます。フォードの牙城に挑んだのがゼネラルモーターズ(GM)です。
GMの当時の社長アルフレッド・スローン(Alfred Pritchard Sloan Jr.)は巨大化した自動車市場を詳しく観察し、低所得層から高所得層までそれぞれの階層ごとの車に対する異なるニーズと欲求が芽生えていることに着目しました。所得階層別に市場を5つのセグメントに分け、それぞれのセグメントに合わせた自動車を開発しました。
最上級の高級車はキャデラック、高級車のビュイック、オークランド、オールズ、大衆車のシボレーのピラミッド構成(1924年当時)です。つまり、フォードの開発したこれ以上望みようのない大衆車T型とは真っ向勝負せず、価格帯別セグメンテーション戦略でなんとフォード王国の牙城を崩したのでした。
S・T・P理論の生まれる前にアルフレッド・スローンはすでに実践していたことになります(学界では20世紀半ば以降セグメンテーションとポジショニングと製品差別化概念を提唱)。ちなみに、1924年の自動車市場に占めるGMのシェアは18.8%で、その3年後の1927年のシェアは43.3%に上昇したため、市場ニーズと見事にマッチしていたといえます。かたくなに単一ラインを固守したフォードを鮮やかに逆転したのです。
「ターゲティング」は4つに分類されている
フィリップ・コトラーは、市場ターゲット戦略を広いターゲティングから狭いターゲティングに応じて4つに分類しています。
①無差別型(マス)マーケティング
ヘンリー・フォードのような、単一の商品やサービス・ラインで全ての市場を対象とする
②差別型(セグメント)マーケティング
GM型スローンのような、市場をいくつかのセグメントに分けて個別に最適な商品やマーケティング(セグメント)を展開する
③集中型(ニッチ)マーケティング
セグメントされた市場の中身を、さらに細分化した特定のターゲットに絞り込む
④マイクロマーケティング
特定の地域に限定したり、個々の顧客のニーズに対応したりする
では次に、セグメンテーションの考え方について詳しく解説していきます。市場が豊かになればなるほど、どのような市場であれ、購買者のニーズや財力、消費行動などが複雑化します。
すると、より市場の細分化をする必要が出てきます。細分化する際、どの企業にもあてはまる最適な基準や方法があるわけではありません。市場をよく観察し、どの顧客がどのような関心や興味を持っているのか、どのように変わりつつあるのかを推察したうえで、自分たちに合う基準や変数を見つけるしかありません。