全国への展開

――隠岐の島への「島留学」から全国100校が参加する「地域みらい留学」へと発展していくにあたっては、何かきっかけがあったんですか。

【岩本】島留学をやっていくなかで、興味を持つ保護者の方、来たいという子どもたちが増えて、島留学の定員では応えきれなくなったんです。いまも隠岐島前高校は留学生に関しては定員の2倍ぐらいの倍率があります。でも、寮に入れる人数など、現実的な制約もあるので、受け入れ人数には限りがあります。

あと、もう一つの理由としては、全国の高校や地域からの視察がたくさん来るようになったことです。「なぜ普通の公立高校でそんなことができたんだ?」と興味を持つ方が多かった。僕らとしても積極的に受け入れて、いろいろ見ていただいたんですけど、みなさん「できない理由」を探してしまうんですよね。

「これはあの校長がいるからできるんですよね。うちの校長はそういうタイプじゃない」とか「うちの町長はそうじゃない」。あるいは、「これは島だからできるんですよ。うちは山だからできない」。そういう反応が多かったんです。僕らは「あの人だから問題」「あそこだから問題」と呼んでいたんですけど。

写真提供=地域・教育魅力化プラットフォーム
 自治体と学校が協力して生徒を受け入れる「地域みらい留学」。教師だけでなく、市町村の人々が関わることが特徴だ。

高校と地域が協働できるかが成功の鍵

――属人的な能力や、特殊な環境があるからできるんだろうと捉えられた。

【岩本】そういう声を聞いて、僕としては「本当に島じゃないとできないのか? 山ではできないのか? 他の学校ではできないのか? ただの言い訳なのでは?」と考えました。この壁を越えないかぎり、日本の教育はよくならない。島じゃなくてもできる。スーパー校長、スーパー町長がいなくてもできる。それを実際に見せていかなければいけない。そう思うようになったんです。

これだけ視察に来られるということは、潜在的なニーズはたくさんあるはず。ノウハウもある程度蓄積していたので、それを使って島根県の他の高校、さらには全国での取り組みを始めたんです。

やってみると、うまくいく高校もあれば、うまくいかない高校もありました。そういった事例を分析していくことで、ここを押さえないと失敗するけど、ここは地域ごとにオリジナリティがあっていいんだということが見えてきました。

――うまくいくには何が大事なのでしょうか。

【岩本】地域みらい留学の一番の基盤になっているのは、高校と地域の協働という部分なんです。

たとえば、私立の全寮制の場合は、基本的に学校だけで受け入れますよね。学力の高い生徒や、スポーツで優秀な選手を集めて、学校側が用意した寮に入れて、勉強とスポーツに専念させます。でも、地域みらい留学の場合は高校だけでなく、“地域”といっしょになって生徒を受け入れます。そして、地域を学びのフィールドにする。

地域の主体は市町村となるわけですが、県立高校の運営は県なので、管理者が違うために、これまではうまく協働できなかったんです。でも、地域みらい留学では、県立高校の校長と首長さんにしっかりタッグを組んでもらうようにしています。

たとえば、県立高校が生徒を受け入れますが、受け入れ支援に関するさまざまな費用は市町村が負担するというように両者が協働することで、はじめて地域みらい留学は機能します。これができない地域はうまくいかないので、参画できないルールとしました。