「天井なき牢獄」鉄壁に囲まれたガザ地区の惨状

【手嶋】「天井なき牢獄」――そんな「ガザ地区」の現状を言い表したこの言葉が全てを物語っています。イスラエルはこの「ガザ地区」を分離壁で完全に封鎖して、周囲を鉄壁で取り囲んでパレスチナの住民を閉じ込めていたのです。その惨状は筆舌に尽くしがたいものでした。

【佐藤】ハマスがここを実効支配するようになったのは2007年のことでした。以来、イスラエルはハマスの白煙テロ攻撃を押さえ込むため、壁を作りました。壁を越えたハマスのロケット攻撃などを防ぐために電力の供給を制限し、さまざまな物資の流れも厳しく制限しました。ハマスが武器を蓄えられないようにするなど、反撃能力を徹底的にごうとしました。そんな状態がもう16年も続いていたのですが、2022年、ネタニヤフ政権が3度目に登場して以来、ガザに対する封鎖政策を一段と厳しくしたのでした。

【手嶋】武器の材料となる恐れがある物資を搬入するのを阻止するため、イスラエル当局が許可したものしか搬入も搬出も許されなかったといいます。陸地はすべて鋼鉄の分離壁やフェンスなどで囲われ、海上も出入港できる船が極端に制限され、厳格このうえない監視体制が敷かれていました。

水道も使えず、電力も制限され、排水処理もできない

【佐藤】通常では武器の持ち込みなどできるはずがない。武器に転用可能な民生品も厳しくチェックされていました。かつて日本の過激派は「パイプ爆弾」を自前で作っていましたが、その材料となる水道管、パイプ、それをつなぐ部品も、ロケット砲に作り替えられる恐れがあるとして搬入が厳しく禁じられました。

【手嶋】その結果、「ガザ地区」では、水道管の修繕ができず、水道が利用できないまま放置され、住民の暮らしが一層苦しくなっていたという報告もありましたね。

写真=iStock.com/deepblue4you
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【佐藤】実際に、ハマスが水道管を地中から掘り出して、ロケット弾に改造しているという情報もありましたから。物資搬入を制限してきたのは、ハマスのテロ活動を抑えるためというのがイスラエルの言い分です。

【手嶋】佐藤さんご指摘の通り、電力も制限されていましたね。以前から「ガザ地区」の総電力の約6割はイスラエルからの配電で賄われていたといわれます。「ガザ地区」に唯一ある発電所も稼働が厳しく制限され、このため住民は、エネルギー供給もイスラエルに頼るしかなかったのです。電力一つとっても“牢獄”と言っていい惨状が続いていたわけです。

【佐藤】電力が慢性的に不足していて、1日数時間しか電気が使えない。電力が足りないので生活雑排水を処理することができない。そのため、近くのめ池に水を溜めたり、海に流していた。悪臭がひどいだけでなく、水源が汚染され、水道や井戸水が飲めないところも多いと聞きます。