「失言をしないこと」を優先してはいけない

Q ゲストのみなさんは、言葉に詰まったりしないのですか。

A しません。だって、企業の社長をお招きしているということは、その会社のことを聞こうとしているし、大学教授を呼んでいるということは専門分野のことを尋ねようとしているわけです。質問するキャスターよりも、はるかにたくさんの情報量を持っているのですから、質問に答えられないはずがない。

Q そう言われればそうですね。とはいえ、広報担当者としては、社長の失言が怖いので、用意した模範解答を読んでほしい、という気持ちもあるのでは。

A その心配は分かります。しかし、「失言をしないこと」を優先してテレビに出演するのだったら、何のために出ているのか分かりません。出演すると決めたからには、視聴者に何かを発信しようという目的があるはずです。それなら、台本やカンペは読まない方がいい。真っすぐに司会者やカメラを向いて話した方が、はるかに思いは伝わります。

政治家の発言が心に響かない理由

Q 政治家の国会答弁でも、官僚が用意した答弁を一言一句違わずに、読む人がいます。確かにあれでは、国民に気持ちが伝わらない気がします。

A これも失言しないことを優先しているからでしょう。そうしたタイプの政治家が、官僚から重宝がられる傾向はあります。振付通りに動いてくれるので安心だし、余計なことを話して自分たちが後始末に追われる事態も避けられます。

これはメディアにも責任の一端があるかもしれません。すぐに政治家の失言を切り取って、問題にする傾向がありますから。

会見する岸田総理(画像=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

Q 確かに発言の前後をよく聞いてみると、そこまでひどい失言ではなかったということもあります。

A その意味では、メディアが政治家を委縮させていることは否めません。とはいえ、さすがに一言一句、官僚が用意したカンペを読み上げるのはどうかと思います。しかも、国会答弁などを見ていると、何度質問されても同じ発言しかしない。

Q さすがにこれでは国民には気持ちが伝わってきません。

A 現にそうしたタイプの政治家は、テレビでも、視聴率が取れません。テレビによく呼ばれる政治家は、自分の言葉で話す人です。もっとも、官僚答弁を繰り返す人にとっては、そんなことは二の次なのかもしれません。現に失言をせず、鉄壁の防御を誇る政治家の方が、生き残って権力の座に就くことは多いです。

Q なるほど、それは会社組織でも共通するところがありますね。ところで山川さんも、ゲストの台本を取り上げる?

A いや、さすがに私には小谷さんのような度胸はありません。せいぜいゲストに「下を向かずに、私の方を向いて話してください」と優しくお願いする程度です。