※本稿は、山川龍雄『「話す・聞く・書く」伝え方のシン・常識 半分にして話そう』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「台本は伏せて」というアドバイスの本質
Q 山川さん、テレビ出演が決まった人に、1つだけアドバイスをするとしたら、何と声をかけますか。
A うーん、そうですね。「台本は伏せてください」でしょうか。
Q えっ、せっかく用意してもらった台本を見るな、ということですか。
A はい。私はおよそ10年前から報道番組に出演するようになりましたが、最初に仕事の「イロハ」を教わったのが、ワールドビジネスサテライト(WBS)などのキャスターを歴任した小谷真生子さんです。BSテレ東の報道番組で相方のキャスターを務めました。その小谷さんの得意技は、ゲストから台本を取り上げることでした。
Q 台本を取り上げる?
A そう。報道番組ですから、企業経営者や大学教授などがゲストとして出演することが多かったのですが、放送開始の直前にいきなり台本を取り上げるのです。あるいは、問答無用で台本を伏せさせる。
Q 相手はエライ人たちなのに、そんなことはお構いなしに?
A はい。みなさん動揺しますよ。だって、この質問にはこう答えようと、台本に書き込んでいる人が多いですから。特に経営者の場合、広報担当者と擦り合わせたうえで、「この質問には、こう答えてください」とメモを渡されていることが多い。小谷さんが台本を伏せさせた瞬間、スタジオで見ている広報担当者の表情が凍り付きます。
台本がなくても意外とうまくいく
Q それはそうでしょう。広報担当者はその日のために、すごいエネルギーを費やして準備してきたのでしょうから。それで、台本を伏せた後はどうなるのですか。
A これが不思議なことにうまくいくのです。小谷さんとの会話が弾む。台本に目を落とさない分だけ、話が予定調和になりません。それに「目は口ほどにものを言う」という格言があるじゃないですか。台本に目を落としながら話すよりも、はるかに自信を持って話しているように画面上は映ります。