「イスラエルとともに世界から孤立」も辞さない

バイデン政権とも良好な関係を築こうとしたという理由で、トランプ氏がネタニヤフ首相に不信感を持っている、という説もある。だが現在は、イスラエルの過激なガザ攻撃に苦言を呈するバイデン大統領に、ネタニヤフ首相はいちいち反発を示している。トランプ氏の大統領就任を、ネタニヤフ首相は歓迎するだろう。そしてトランプ氏もそれを受け入れるはずだ。

※写真はイメージです(写真=IDF Spokesperson's Unit/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons/)

第2次トランプ政権の成立は、国際社会の逆風をものともせず、アメリカがさらにいっそう明確なイスラエル擁護の立場をとるということを意味する。そしてアメリカは、イスラエルとともに、国際的には一層の孤立をしていくだろう。

第2次トランプ政権の中東政策で、最も不透明な要素は、トランプ氏の無類の「交渉(Deal)」好きな性格が、ガザ危機後の地域情勢で、どう働いてくるか、という点である。

ワンマン経営者から、大統領に一気に転身したトランプ氏にとって、「取引」こそが、自らの存在価値を証明するものだ。破天荒なイメージが強いトランプ氏だが、原則を無視したり既存の政策を見直したりするのも、すべて自分の思い通りに「取引」がしたいからである。無類の交渉好きだと言える。

第1期政権の外交成果「アブラハム合意」

第1期トランプ政権の外交成果の一つが、「アブラハム合意」であった。狭義の「アブラハム合意」は、2020年8月にイスラエルとアラブ首長国連邦との間に締結された平和条約および国交正常化の合意のことを指す。その後、類似の合意が、バーレーンとの間にも締結され、さらにスーダンやモロッコが追随する流れとなった。広い意味での「アブラハム合意」は、こうした一連のイスラエルのアラブ諸国との国交回復の流れを指す。

この「アブラハム合意」の現象が、バイデン政権の時代になっても続いていることの象徴として、イスラエルとサウジアラビアとの間の国交回復が予定されていた。だが、2023年10月のハマスによるテロ攻撃と、その後のイスラエルの苛烈かれつなガザ攻撃は、この「アブラハム合意」の動きを停止させた。イスラエルを批判する世論が、アラブ地域はもちろん全世界で高まっている中で、あえて火中の栗を拾ってイスラエルとの国交合意を誇示しようとするアラブ諸国は、存在しない。