「Disney+」失速の要因
発端はディズニー7代目CEOとなったボブ・チャペック(Bob Chapek)だ。
2020年2月に6代目アイガーから引き継いでトップとなったチャペックは、1993年入社以来四半世紀にわたってディズニーに勤め、映画部門・コンシューマ部門・パーク部門を歴任し期待の「プロパー社長」でもある。コロナ期の2年間をDisney+という配信事業にコミットし、1.6億人もの有料サブスクライバーを集め、Netflixに次ぐOTTメディアを育て上げた。
2019年11月のサービス立ち上げ当初は「2024年までに6000~9000万人」と計画していたDisney+はコロナ期の追い風に吹かれ、HuluやDSPN+まで合わせてディズニーグループで2.35億有料登録者にまで到達。なんと3年でNetflixに並ぶサイズに急成長したのだ。
チャペックはこの勢いに乗じて、2024年までに現状1.6億人のDisney+だけで2.2~2.6億人まで成長させようと意欲的だったが、2022年後半期にこの急発進のためのコンテンツ投資、広告費などもろもろのしわ寄せが顕在化する。
好調に見えたはずのDisney+だけで年間40億ドル(約5714億円)の損失、さらには2022年10~12月だけで10億ドル(約1428億円)の損失、この「Go BIG or GO HOME(勝つか止めるか)」のNetflixとのチキンレースにしびれを切らしたのは、ディズニーの株主たちだった。
2005年から続く後継者問題
2022年11月8日にFY2022の決算を発表したチャペックは、莫大なコンテンツ投資によるDisney+の大赤字についてさらりと流すような説明を行い、反発した株主の投げ売りを招いて株価は即日で13%落下。
現経営陣のなかでもチャペックに対する不信感が強かったことも助長し(取締役会長のボブ・アイガーがチャペックと関係が良好でなかった点も大きかった)、その12日後にはチャペックはなんと解雇されてしまった。たったの999日間の在任期間だった。後任は「6代目」として15年間在任していたアイガーが「8代目」として前任社長が返り咲くことになってしまったのだ。
これまでディズニーのトップ在任期間は長かった。その分、継承ストレスも相当なものだ。2005年にあった5代目マイケル・アイズナーから6代目アイガーへの交代も、一筋縄ではいかなかった。
取締役会が機能する米国企業では、社長の選任は取締役会マターだ(本来の株式会社のあるべき姿ではあるが)。社長に指名権はない。そもそも21年在任して「名経営者」として名を馳せ、100億円以上もの年収を得ていたアイズナー自身が、創業家で株主でもあるロイ・ディズニーと泥沼の論戦を繰り広げていたのだ。
創業家のロイを取締役から外そうとするアイズナーに、ロイは「(アイズナーを辞めさせて)ディズニーを救おう」というキャンペーンを張り、徹底的に抗戦した。