相次ぐM&Aによる成長
ABCのスポーツ部門のトップとして1995年にディズニーグループ入りしたアイガーにとって、ともに10年にわたって仕事をしてきたアイズナーの失脚は、自身のポジションの危機でもあった。
「社内からの社長昇格候補にあがっているのはアイガー1人。基本的には社外で社長適任者を探す」とアイズナーに言われたアイガーは、そこに条件をつきつける。
「社内の社長候補者は自分1人だということをプレスリリースに出してくれ」
外部の変革者でないとディズニーを変えられないとみられていた当時、アイガー就任の風向きは非常に悪く、こうした“公式の継承権”の助けなしにはCEOになることはなかっただろう。
トップが変われば方針はがらりと変わる。6代目アイガーが、就任後最初の取締役会で提案したのは、傷みきった祖業のアニメ制作部門を補強するために、ピクサー買収に向けてスティーブ・ジョブズと交渉してよいか、というものだった。
それまでピクサーは映画配給権でディズニーと揉めに揉めており、ピクサートップのスティーブ・ジョブズは当時のディズニーアニメ作品を「目を覆いたくなるような駄作ばかり」と罵り、「二度とディズニーとは付き合わない」とまで言い放っていた(2004年時点)。
そうした険悪なピクサーを取り込むことはかなりリスクある戦略で、辞めたアイズナーからも直々に「やめてくれ。バカなことをするんじゃない」「奴らの実力なんて知れてるじゃないか?」と大反対した。結果は、われわれが知るように、結果だけみればピクサーの買収は大成功。
もはやディズニーは映画の会社ではない
そしてそこでアイガーが築いたスティーブ・ジョブズとの深いつながりがなければ、次のマーベルの買収も、その次のルーカスの買収も実現しなかっただろう。次々にM&Aを成功させた中興の祖であるアイガーに再び舵をとってもらおうという選択肢は、この文脈でいえば理解できないこともない。
そもそもディズニーとは何の会社なのか。
配信のDisney+もあれば、スポーツ興行のESPNもある。地上波のABCも入れれば、立派な「メディア企業」であり、われわれがイメージするアニメ映画やディズニーランドなどのパーク事業というのは「一部のコンテンツ事業」に過ぎない。
そのディズニーが大きな変革を遂げたのも、実はアイガーの前の、外から来た5代目CEO・マイケル・アイズナーの辣腕のお陰だった。