恐ろしい健康被害もある

人の暮らしにとって、もうひとつ危険なことがあります。スクミリンゴガイは、広東住血線虫の中間宿主で、沖縄で採れたスクミリンゴガイからこの線虫が見つかっています(*8)

子供が誤ってこの貝を食べる、もしくは触った手を口にして線虫が感染すると、発熱、頭痛、嘔吐などが生じ、筋力低下、麻痺や失明などの後遺症が残ることがあり、ときには重篤になり昏睡こんすい、または死亡することもあります(*9)

現在までに、スクミリンゴガイは、環境省と農林水産省による「重点対策外来種」に選定されています。また、国際自然保護連合(IUCN)による世界の侵略的外来種ワースト100という、特に生態系や人間活動への影響が大きい生物リストにも名を連ねています。

稲の苗や茎を食べる稲作や水耕野菜農家の敵、とんでもない病害虫なのです。

水田に放す行為は「きわめて危険」

スクミリンゴガイは、人と暮らしにとって有害な面がとても多いことがわかりましたね。

ところが冒頭にも書いたように、近年、水田の雑草も食べてくれるので、この貝を水田にあえて放すことで農薬を減らせるのではないか、という試みがあるようです。

貝が多発する九州地域などでは、水田の管理を十分にしたうえで、独自農法として従来より自分の水田に撒いている方もいますが、新たに安易な理由でスクミリンゴガイを水田に放す行為は、この貝が発生していない場所や地域にもさらにリスクを広げてしまうため、たいへん危険な行為だといえるでしょう。

*1 Heras et al. 2008. First egg protein with a neurotoxic effect on mice. Toxicon 52: 481-488.
*2 Yusa Y, Wada T 1999 Impact of the introduction of apple snails and their control in Japan. Naga, the ICLARM Quarterly 22: 9-13
*3 Tanaka et al. 1999 Density-dependent growth and reproduction of the apple snail, Pomacea canaliculata: a density manipulation experiment in a paddy field. Res Popul Ecol 41: 253-262
*4 Carlsson et al. 2004 Invading herbivory: the golden apple snail alters ecosystem functioning in Asian wetlands. Ecology 85: 1575-1580.
*5 Yusa et al. 2006 Predatory potential of freshwater animals on an invasive agricultural pest, the apple snail Pomacea canaliculata (Gastropoda: Ampullariidae), in southern Japan. Biological Invasions 8: 137-147.
*6 農林水産省 消費・安全局ウェブサイト
*7 O’Neil et al. 2023 Invasive snails alter multiple ecosystem functions in subtropical wetlands. Science of The Total Environment 864: 160939
*8 Nishimura K et al. 1986. Angiostrongylus cantonensis infection in Ampullarius canaliculatus (Lamarck) in Kyushu, Japan. Southeast Asian J Trop Med Public Health 17:595-600.
*9 NID国立感染症研究所

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