水田はジャンボタニシの天国
卵は2週間ほどで孵化し、最初は藻やウキクサなどを食べ、成長すると稲などの水生植物を食害します(*4)。孵化後、約2カ月で繁殖できるようになり、水路を伝って瞬く間に分散し、地域に蔓延します。
成貝の殻の高さは2~7センチメートルほどで、殻の色は個体によって、黄色がかった褐色から黒色に近いものまでさまざまです。
スクミリンゴガイは、水路を利用してその分布を広げています。河川や池には貝を捕食するカニ、コイ、カメ、マガモなども生息するため、スクミリンゴガイはこれらの天敵に食べられます。
ところが、管理された水田にはこの貝を食べる捕食者がいません(*5)。これが水田でスクミリンゴガイが猛威を振るって繁殖する理由なのです。
天敵のいない水田でスクミリンゴガイは自在に稲を食べて繁殖し続けます。そして、14℃よりも水温が低くなると水田や水路の土の中に潜って休眠したまま越冬し、翌年の春にまた活動を開始します(*6)。
湿地植物類に壊滅的な生態的・経済的被害
スクミリンゴガイの被害は、日本のみならずアメリカでも見られます。農業湿地帯の植物種を優先的に食べてしまい、湿地植物類に壊滅的な生態的・経済的な被害をもたらすことが、フロリダ州での調査から明らかになっています(*7)。
フロリダの研究は、農業だけではありません。いったんスクミリンゴガイの侵入を許した湿地では、そこに棲む藻類をはじめとする多く在来植物にも食害が及びます。物資循環にも影響を及ぼすため、生息する多くの生物にも影響して、生態系システム内の生物同士のリンクを遮断することを示しています。
さらに、この研究は、湿地帯が人類に与える生態系サービスの減少にもつながり、脆弱な湿地帯に懸念すべき重要事項だと警鐘を鳴らしています(*7)。
スクミリンゴガイは、台湾、ベトナム、フィリピン、アメリカなどにも侵入し、日本では2020年時点で、すでに沖縄、九州、四国の全県、および島根県を除く中国地方と近畿全県、東海、関東を含む31府県で発生が確認されています(*6)。