暴力団組員に頼み込み、覚醒剤の密売に手を出す

戸山隼人とやまはやと(仮名、66歳)の場合

釡ヶ崎の一帯は、覚醒剤をはじめとした違法薬物の密売が多い地域として知られている。売人の中には暴力団や半グレだけでなく、ホームレスもいる。

隼人は若い頃から日雇い労働で生計を立てていたが、そうした中で覚醒剤を覚えて長らく使用してきた。そのせいで、精神障害を患い、日雇い労働をすることができなくなった。

当時、彼は結婚をして妻と子がいたため、別々に生活保護を受給するために偽装離婚することにする。

隼人は単独で、妻は子と二人で生活保護を受けたものの、生活の乱れた彼らは、その金額だけではやっていけなかった。

隼人は金を作るため、知人の暴力団組員に頼み込み、覚醒剤の密売をやらせてもらうことにした。

覚醒剤の密売は三人一組

生活保護受給者は、アルバイトなどをすれば、その分の収入が受給金額から引かれてしまう。だが、覚醒剤のような裏の仕事をすれば、そのもうけを丸々手にすることができる。

それが覚醒剤の密売をはじめた理由だった。

釡ヶ崎の周辺では、覚醒剤の密売は三人一組で行われる。

「見張り役」「売人」「売人を逃がす役」だ。一人が警察がいないかどうかを見張り、もう一人が密売をする。仮に警察が来れば、さらにもう一人がおとりとなって密売人を逃がすのだ。

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一人が警察がいないかどうかを見張り、もう一人が密売をする(※写真はイメージです)

覚醒剤の密売の仕事はそこそこ儲かったが、隼人は毎日気が気でなかった。

自分が逮捕されて刑務所に送られれば、妻子までもが苦境に陥ることになる。毎晩、その恐怖とストレスで眠れないほどだった。