国のハザードマップは「外れマップ」
現に、石川県は想定以上の被害を受けた。県は政府の地震評価を基に、防災計画の被害想定を27年間見直ししていなかったことも明らかになっている。このような事例は石川県だけではない。
2016年4月、M6.5とM7.3の揺れを連続記録した熊本地震、2018年6月の大阪府北部地震(M6.1)、2018年9月の北海道胆振東部地震(M6.7)、2019年2月の北海道胆振地方中東部(M5.8)など。30年以内のマグニチュード(M)7.0級の地震発生確率は、熊本が「ほぼ0~0.9%」、大阪が「0%から3%」、北海道が「ほぼ0%」「0.2%以下」だった。
小沢記者の著書に登場する東京大学理学部ロバート・ゲラー名誉教授は「今後30年のうちに震度6弱以上の地震に見舞われる確率が極めて高いとされている、南海・東南海・東海地方(南海トラフ)や首都圏では、1990年以降死者10人以上の地震は起こっていない。実際に起きた震災は、比較的安全とされた地域ばかりだった。この地図はハザードマップではなく、『外れマップ』だ」と批判している。
日本国民を裏切り続ける「安全神話」
熊本地震に遭った熊本県の防災担当者は、小沢記者にこう話した。
「私たちも南海トラフのように80%と言われたら、いつでも起きるんだと思い、防災に努めるとなったかもしれない。1桁を切る確率だったので、地震は来ないと思っていました」
ほかにも多くの被災者が「油断していた」「不意打ちを受けた」と語った。熊本地震が発生するまで、地震は来ないという「安全神話」が浸透していた、と小沢記者は指摘する。
北海道や大阪でも、自治体や住民は「神話」を信じてしまった感が否めない。小沢記者が話を聞いたある自治体担当者は「南海トラフや首都直下みたいに真っ赤な地域以外、どう見たって地震は起きないということを伝えているようにしか見えないですよね」と語る。
こうした「安全神話」に対して、政府の地震本部は「自治体が情報をどう使うか、何かをいう立場ではない」と回答する。そして、熊本地震で活動した布田川断層帯の長期評価について、「0~0.9%という数値は『やや高い』に分類する」と説明する。
小沢記者は「0.9%をやや高いと思う人がどれだけいるだろうか。地震ハザードマップの存在そのものが誤解を招く原因になっているのではないか」と問いかける。