超巨大地震「南海トラフ地震」の発生が危惧される中、2016年に熊本、2018年に北海道・胆振、2024年には能登半島で大地震が起きた。発生確率が高くないとされていた地域で地震が起き、南海トラフ地震が起きないのはなぜなのか。『南海トラフ地震の真実』を書いた東京新聞の小沢慧一記者に聞いた――。(後編/全2回)
(前編から続く)
発生確率「0.1~3%」の能登半島で大地震発生
2024年1月1日、石川県能登半島をマグニチュード7.6、最大震度7の地震が襲った。県内で2020年から30年内にマグニチュード6.5以上の揺れが起きる確率は「0.1~3%未満」だったにもかわわらず、だ。
地震調査研究推進本部(文部省管轄)が公表したハザードマップと呼ばれる「全国地震動予測地図(2020年度版最新)」が示す色は、発生確率が相対的に低い「黄色」。70~80%の確率で地震が切迫し、真っ赤に色分けされている南海トラフとは対照的だ。
東京新聞社会部・小沢慧一記者は、著書『南海トラフ地震の真実』(東京新聞)で、「『安全』と勘違いする落とし穴が地震発生確率とハザードマップにはある」と書いている。
「うちの地域は安全」という油断を生んでいる
前編で紹介したように、「南海トラフ地震が30年以内に70~80%で発生する」という予測はデタラメだった。地震確率を検証・評価する地震予測推進本部の海溝型分科会の元委員で、そのスクープのきっかけとなった名古屋大学・鷺谷威教授(地殻変動学)は、「地震ハザードマップ」についてこう批判する。
「赤く色分けされた南海トラフ沿いの地域や首都圏以外は『安全』だと国民に誤解させることにしかなっていない。危険は日本列島に満遍なくあるのに、この地図だとそのことが見えなくなる」
地震の発生確率は天気予報の降水確率とは違う。降水確率が2%なら「傘は持って行かなくても安心」と思えるが、もしも地震が起きた場合、そのリスクは雨に濡れるのとは桁違いになる。
「政府は地震に備えてほしいというメッセージを送るなら、国民に地震の危険度を低い確率で表示するのは逆効果になる」と、鷺谷氏は強調する。