地震予測は「防災対策をしない」理由にもなる

関東大震災タイプの地震である海溝型の相模トラフ地震の規模はM8.6と想定されており、首都直下地震の想定をはるかに上回っている。それでも、相模トラフ地震の発生間隔は200~400年と来ないものとして、関東大地震タイプの地震より小さい想定をした。「その想定には、五輪を控えた東京の世界的イメージも意識したのかもしれない」と小沢記者は指摘する。

地震発生確率、ハザードマップ、そして被害想定を巡る政府の対応について、小沢記者は「リスク判断をする材料となる科学的なデータは、正直に開示しなければ、正しい前提で判断ができないだけでなく、地震に対しても正しい危機意識を持てなくなる」という。

また、「自治体や住民も政府の地震予知・予測で『どこ』と予測されたら、そこだけ対策をすればいいと考え、コストのかかる防災対策を『しない』理由付けにしてしまっているのも問題だ」と苦言を呈した。

現代の地震学でも「予知」はできない

日本は、世界で起きるM6.0以上の大地震の20%が発生する地震大国だ。明治時代に日本で地震学が始まってから地震研究が推進されているが、小沢記者によると「残念ながら現在の地震学はいつ、どこで地震が起きるかはっきり予知する実力がない」。

地震学者らいわく、地震発生の要因は地球内部の複雑な現象が絡み合っているため、現代の科学をもってしても解明できないのだ。石川県能登地震でも、震源の海域活断層の存在は把握していたが、実際に地震が起きてから、約20キロ離れた活断層が付随して動いたことがわかり、新たな知見を得ている。

大規模火災で焼け落ちた石川県輪島市の「輪島朝市」付近=2024年1月3日午前
写真=時事通信フォト
大規模火災で焼け落ちた石川県輪島市の「輪島朝市」付近=2024年1月3日午前

全国地震動予測地図や地震発生確率といった地震予測が的確な情報を表示していないのであれば、私たちは何を頼りに備えをすればいいのだろうか。

小沢記者は「主要活断層の位置、揺れやすさ、揺れた場合の被害の大きさなどついては比較的正確に知ることができる。こうした情報は防災科研ホームページの『地震ハザードステーション』などで確認できる」とするが「専門家向けで、素人が調べるには難しいかもしれない。こうした情報が国民にわかりやすく周知されていないのも問題だ」と指摘する。

現段階で検知できているのは116の主要活断層と6つの海域活断層のほか、2000以上の活断層の位置だ。しかし、計測できない相当数の活断層がまだ日本の地下で眠っているとされ、どこにあるかはわかっていない。言えるのは、地震発生確率が低いから安全と考える「安全神話」と同じように、活断層がHPに表示されていないからといって、油断しないことだ。

「各自治体のハザードマップは上記のような問題もあるので必ずしも十分ではないが、いま私たちにできることは、まずは国や各自治体が出している防災情報を自ら調べて土砂崩れ、津波、地盤のリスクを確認し、地震対策として備えをすること。日本に住む以上はどういうリスクがあるかを知った上で、『いつ地震が起きてもおかしくない』という意識を持って生活しないといけない」(小沢記者)

(聞き手・構成=ライター・中沢弘子)
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