光源氏に頼るしかなかった紫の上は出家もできなかった

紫の上の孤独感や生きづらさは、明石の君のような信頼できる肉親や、女三の宮のような個人的収入を伴う声望がなく、夫一人を頼みにしているという心細さからきています。それを表現するために、女三の宮の収入のことまで書かれているんです。

大塚ひかり『やばい源氏物語』(ポプラ新書)

もちろん紫の上にも財産がないわけではありません。不仲な実家からは何ももらえないとしても、源氏からは、源氏の母の里邸だった二条院を譲られています。だとしても、父・入道が莫大ばくだいな資産を築いた明石の君や、朝廷に守られている女三の宮と比較すれば、経済的に夫に寄りかかる部分の大きい、寄る辺ない立場であるには変わりありません。

藤壺や朧月夜、女三の宮といった女君がさっさと出家する中、紫の上は出家を切望しながら、夫の許可が得られないからといって最後まで希望を押し通すことがなかったのも、一つには頼れる実家や資産というものが少なかったということがあるでしょう。

夫婦間における立場の強弱も、出家(実質的な離婚を意味することも少なくありません)の可否も、多くは「経済力」に左右される。

紫式部は、「経済」の重要性が分かっていたからこそ、収入のことや人の貧乏ぶりを、細かに記していたのです。

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