立ちはだかる「法の壁」
当然のことながら、国会での承認がなければ防衛出動はない。問答無用で暴れまわるゴジラを相手に、そんな悠長なことをやっていていいのかと国民のひとりとしては心配になる。だが、法治国家である以上、法には従わなければならない。
「なので、現場としては、一刻も早く海上警備行動の発令をお願いしたいところだ」
たしかに国会での承認を必要とする防衛出動とは違い、命令の発令権者が防衛大臣である海上警備行動であれば、閣議を経て、内閣総理大臣の承認で、防衛大臣は命令を下せる。これなら防衛出動よりも短い時間で済む。いち早くゴジラに対応できる。
だが、これは諸外国やテロ組織が日本を攻撃する意図、目的をもってゴジラを放ったことが明確な場合だ。
仮に、諸外国やテロ組織による日本への攻撃ではなかったとしよう。しかし当のゴジラがわが国の領海内で暴れまわっている。この場合も法の壁が立ちはだかる。
「暴れまわっているだけでは、何もできない」
そもそも防衛出動でも海上警備行動でも想定しているのは「武装した敵の艦船」である。巨大生物であるゴジラは艦船ではない。それにゴジラは“武装”しているのかと問われれば、専門家ですらその解答に窮する。
ふと視線を宙にやり、私に鋭い視線を向けた1等海佐は、こう静かに口を開いた。
「ただ、暴れまわっているだけでは、何もできない。これが率直なところだ――」
考えてみてほしい。日本の領海内で巨大生物……、たとえばイルカ、クジラ、見たこともない大きなタコやイカなど何でもいい。それが官民問わず、わが国の艦船に何がしかの被害を与えたとしよう。だからといって、それだけを理由に自衛隊が現場の判断で武力を行使できるだろうか。その答えは誰しも察しのつくところだろう。
このように、もしゴジラが日本の領海に現れても、何も為す術がないというのが現状だ。
とはいえ、ゴジラに限らず、巨大生物が日本の領海で暴れまわっている状況下、わが国は国家として本当に何もできないのだろうか。