LUUPのポートが使う「軒先空間」

実は、このようなデッドスペースの活用は、思わぬ副産物を産んでいる。「軒先空間の復権」である。さまざまな問題が指摘されるLUUPであるが、こうした方向性において、都市空間における新しい可能性を切り拓くのではないかと筆者はひそかに思っている。

こうしたデッドスペースの一つとして注目されているのが、小売店などにおける「軒先」である。屋根が入り口よりも突き出した部分をそのように呼ぶが、現在では、建物の敷地と入り口の間の部分をそのように呼ぶこともある。従来こうした軒先には何も置かれていないことが多く、まさにデッドスペースになっていたわけであるが、LUUPの活用によって、軒先にポートが設置されるようになった。

筆者撮影
軒先にポートが設置されている

2022年5月の段階でファミリーマートがLUUPと業務提携を結んでおり、日経クロストレンドでは、これを「軒先ビジネスの本格展開」としている。たしかにいくつかのファミマを訪れてみると、その軒先の多くにポートが設置されていることがわかる。

また、コンビニに限らず、一般的な住宅や個人商店などの軒先にもポートが設置されている様子が見受けられ、「軒先」がポート設置にとって非常に重要な空間になっていることがわかる。

LUUPのポートでコミュニケーションが生まれる

「軒先」で何が起こっているのか。これは、私の知人であるOさんから聞いた話である。OさんがLUUPを使ったとき、都内にある酒屋の軒先にあるポートを利用した。そのときに、その酒屋の主人と会話を交わしたという。

店の軒先にLUUPがあるから、必然的にそこではその敷地の所有者とLUUPの所有者との間に会話が生まれることになる。もちろん、こうした例はコンビニなどではなかなか起こらないかもしれない。しかし、個人商店や個人住宅の軒先にあるポートであれば、そこで何らかのコミュニケーションが生まれる可能性もあるのだ。

実は、軒先空間とはかつて、その敷地内の人と外部の人との交流を生み出すコミュニケーションの場になっていた。店先で客と店主が会話をする、という光景は思い浮かべやすい。特にこうした軒先空間を重視して、建築における内側と外側が曖昧な空間を作ることは、伝統的な日本建築が常に意識してきたことでもあった。その意味でLUUPは知らず知らずのうちに「軒先空間の復権」といえる現象を起こしている。

筆者撮影
とあるビルの喫煙所横に設けられたLUUPのスペース。こうした日常の何気ない空間に置かれるLUUPのポートから、もしかすると新しいコミュニケーションが生まれるかもしれない

おそらく、LUUP側はそこまで意識していなかったのかもしれない。ただ、LUUPのホームページを見ると、ポートを置くときの一つのメリットとして、「集客効果の向上」が謳われている。そこにポートがあることによって、立ち寄るはずの無かった人がそこに出向くことが、特に観光地の場合はポート設置の際のメリットの一つとして語られるのだ。

もしかしたら、LUUPを介した新しい形でのコミュニケーションが立ち上がることもあるのかもしれない。