ローンの名義は夫だろうというアンコンシャスバイアス
銀行など金融機関の窓口で、夫婦で住宅ローンの相談に訪れた際、先方の担当者が夫のほうばかりを見て話しかけ、妻を一切見なかったなどという話を聞いたことがないだろうか。これは、典型的なアンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)の一例だ。偏った見方や思い込み、先入観が知らず知らずのうちに、頭に刻み込まれ、その人の固定観念や既成概念として定着していく。金融機関の担当者は、男性=夫のほうが、女性=妻よりも稼いでいるに違いないというステレオタイプの印象を何の疑問もなく抱いており、ローンの名義も夫になると確信しながら話しているのだ。実際には、妻の収入のほうが上回っているだけでなく、ローン名義は妻の単独だったり、妻が家計の主導権を完全に握っていたりする例があるにもかかわらず、だ。
稼ぐ妻の中にもある「働くのは男性だ」という意識
内田さんの妻は、しばしば内田さんに対し、こう漏らす。「もう、こんなに稼がなくてもいいんじゃないかな」。これに対し、内田さんは仕事をセーブするよう勧めてみるものの、妻は何らペースを変えることなく働き続けており、結局は妻の一時的な愚痴で終わっているという。
日本社会に横たわり続けており、内田さんが「常識」と指摘するジェンダー役割規範を巡る硬直性は、自分が働き続けなければいけないと思い込んでしまう男性だけを苦しめるのではない。「やはり働くのは男性なのだ」と女性にも思わせてしまう面があり、これが内田さんの妻の意識に影を落としていることが、この発言から浮き彫りになっている。
専業主婦が大半だった昭和時代は、「男たるもの、一家の大黒柱としてバリバリ外で働き、家事育児は妻に任せて、妻子を養う」という価値観が、ごく当たり前だった。平成を超え、令和に移り変わった今も、この価値観が働く女性をも縛っていることがうかがえる。