「就業者数は主として景気に連動する」という思い込みは、失業率が1桁にとどまっているような日本では通用しない。失業者数の増減を見ているだけでは、就業者数の増減はまったくわからない。
ところが、歪んだ認識のもとで、悪の連鎖が起きている。団塊世代の退職者の増加で、人手不足になった企業は採用を増やすはずだったが、将来見通しの暗さから、採用を増やさなかった。正しい数字の見方やその意味が理解されることなく、人々を煽るような、あまりにもいい加減な数字や情報が、影響力の大きい人たちによって流されてきた。まさに「床屋談義」のような情報が、尾ひれをつけて日本中を覆ってしまっている。
今、日本で起きている現象は、数字上の「好景気」と実態としての「内需縮小」だ。世界の景気にさえ変調がなければ、輸出競争力のある商品は売れ続ける。輸出製造業は設備投資を増やし、人員を機械に置き換えることで、人件費を削減し、収益を改善させる。改善した収益は株主である高齢富裕層の個人所得を増やす。この結果、計算上の「好景気」が観察される。しかし国内の雇用の大部分を占める内需型産業の業績は回復せず、むしろ悪の連鎖によって、ますます内需を縮小させる方向に進んでいる。結果的に、個々の企業にとっての「部分最適」が、日本経済を壊そうとしている。
※すべて雑誌掲載当時
1964年、山口県生まれ。88年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経て、10年参事役、12年より現職。11年4月には政府の復興検討部会の委員に選ばれた。