キングコング西野さんの「伝説のスピーチ」
その西野さんが近畿大学の卒業式に招かれてスピーチをしたときの話です。そのとき、西野さんは卒業生に贈る言葉として「人生に失敗なんかない」というメッセージを伝えたのですが、これが後に「伝説のスピーチ」と呼ばれ、広く知られるようになりました。
かいつまんで紹介すれば――西野さんは「時計台の大時計の長針と短針が重なるのは1日に何回あるか?」というたとえ話をします。1時台なら1時5分、2時台なら2時10分……という具合に、毎時約5分ずつずれながら針は重なっていきます。
短針が一周するのに12時間かかります。1時間に1回ずつ重なるとしたら、単純に考えると1日に24回重なりそうなものです。
ところが、正解は22回。なぜなら、11時台には長針と短針が重なるタイミングがありません。重なったときには既に12時になっているからです。12時になると、時計台の鐘が鳴ります。
つまり、何が言いたいのかと言えば――「人生も同じ。鐘が鳴る前には、報われない時間が必ずある。自分にももちろんそんな時期があった。しかし、それは失敗ではない。世の中のタイミングと自分の中のタイミングがぴたりと重なる瞬間は必ずくる。
報われない時間を過ごしているときには、自分は今、“人生の11時台”を迎えているのだと考えてほしい」という意味を込めた、西野さんからの卒業生へのメッセージだったわけです。
「人生(には報われない時間がある)」という言葉は、まさしく「多くの人には見えないもの」です。なぜなら、「形がないから」です。
「他の人にも理解できるようにできる」のが解像度の高い人
そして、このとき、話している相手は「大学生」でした。もちろん、優秀な方々であるとはいえ、「形のない、見えないもの」を理解するのは容易ではありません。
おそらく西野さんは、今回の相手(大学生)は「具体的な話」のほうが理解しやすい人たちだと考えたのでしょう。
西野さんの話がうまいのは、「人生」という「形のないもの」を、「時計」という「形のあるもの」にたとえたことです。そうやって、「多くの人に見えるように」してあげたのです。
おそらく「解像度の高い人」代表である西野さんにとっては、「人生(には報われない時間がある)」ということだけでも、ご自身としてはイメージは湧くし、納得して理解をしているはずです。
しかし、おそらくこれは「具体的なことのほうが理解しやすい人」にとっては、わかるようでいて、イメージが湧きません。
この「自分には理解しているもの」をそのまま伝えても相手が理解できないときに、「他の多くの人にも理解できるようにできる」のが、「解像度が高い人」なのです。