「共同戦線」を仕掛けた三菱商事の思惑

そもそも総合商社は物量の大きさで収益を上げるバルク商法であり、国内外からの良質な商材の調達には長けてはいるものの、あくまでBtoB領域をメインの市場としているがゆえに、BtoCのマーケティングは得意領域ではないという弱点を併せ持っています。

そのため、セブン‐イレブンがマーケティングに長けたカリスマ経営者・鈴木敏文氏の下で、消費者ニーズを先取りし次々と新商品、新サービスを開発して業績を伸ばしたのに対して、ローソンやファミリーマートは後追いでおこぼれを拾っていくのが常という歴史があるのです。

ファミリーマートはローソンと同じく大手商社の伊藤忠商事の子会社ですが、2020年にTOBによる100%子会社化により上場を廃止しています。異業種提携による業務拡大、24時間営業の見直し、店舗網飽和状態と今後の人口減少を踏まえた新たな戦略策定など、多くの課題を抱える今後のコンビニ経営を考える時、戦略の柔軟性とスピード化を優先した結果としての上場廃止であったわけです。

三菱商事も当然、何らかの形でのローソンの上場廃止を視野に入れていたのでしょう。さらに子会社から持分法適用会社への移行ができるなら自社の資産効率化もはかれるという狙いもあり、他社との共同経営化を目論む中でKDDIとの持ち合いによる資本業務提携に落ち着いたものと思われるのです。

当初、参画する予定だった「もう1社」

しかしこの共同経営体制、実は当初は三菱商事、KDDIともう1社の3社による共同経営が予定されていたことが、会見当日のKDDIの適時開示資料で明らかになっていたのです。資料では、もう1社を「当初パートナー候補者」と表現して、「当初パートナー候補者は、2023年12月25日付で、対象者に対して本取引(当初案)に関する提案辞退の申し入れを正式に提出した」とあります。開示資料では具体的企業名には言及されていませんでしたが、2月15日、日本経済新聞が石油元売り最大手のENEOSホールディングス(HD)であったと報道しました

日経新聞によると、ENEOSホールディングスも共同経営に参画する予定だった(写真=円周率3パーセント/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

ENEOSと言えば昨年、齊藤猛社長(当時)が懇親会の席で女性に抱きついて解任に追い込まれています。それが12月19日のこと。日経新聞によると、ENEOSは「経営トップが不在となり枠組みから離脱した」ということです。前年の22年には会長兼CEOだった杉森務氏も、飲食店店員に対して、性的に不適切な行為を行ったとして辞任に追い込まれています。二代続けての経営トップによる破廉恥な不祥事に、さすがに共同経営どころではなくってしまった、というところでしょう。