人事は「マネジメント・スキル」を問題視しているが…

二つを比べると、人事部の課題意識で最も高い「働き方改革への対応増加」は、管理職自身の課題意識では6番目に下がります。また、人事部が考える課題で2位、3位の「ハラスメントの対応増加」「コンプライアンスの対応増加」は、管理職自身の課題意識では、上位10位以内にも入っていません。

逆に、管理職自身が感じている課題の1位「人手不足」は、人事部では9位まで下がり、2位の「後任者の不在」も人事部では8位まで下がります。3位の「自身の業務量の増加」は、人事部の課題意識の上位10位以内にも入っていません。

このように、管理職自身が抱えている課題と、会社が管理職に対して持っている認識は大きく食い違っています。管理職からは「会社には期待していない」「人事は何もわかっていない」といった会社側への不満がでてくる一方で、会社側からは「現場はいつも人が足りないと言うものだ」といった言葉が聞かれます。こうした食い違いが、「罰ゲーム」問題をさらにややこしくしています。

管理職に対して人事部(会社側)が問題に感じていることと、実施している管理職への支援について、さらに聴取しました。図表4に結果をまとめます。ここで最も多く挙げられたのは、管理職の「マネジメントの知識・スキルが高まらない」という問題でした(36.0%)。企業人事は、自社の管理職のマネジメント・スキルが低いことを問題視しているようです。

負担が増幅する「インフレ構造」が出来上がっている

会社が行っている支援については「IT化やシステム化などによる省力化」が1位、2位が「研修などによる、管理職本人のマネジメント・スキルの向上」です。これらは構造的・組織的な支援というより、対症療法的なものです。ツールを渡しておいて、あとは管理職個人のスキルや力量で乗り切ってもらおうとする姿勢が見られます。管理職に対するサポートを「特に行っていない」と回答した企業が24.0%ある点も見過ごせません。

まとめれば、今、企業の中には、管理職負担が増幅し続けてしまうインフレ構造が形成されている、ということです。管理職の「罰ゲーム化」は、「時代の流れの中で業務が大変になっている」という地殻変動的なものもあるのですが、会社内部における問題解決のフレームが誤った形でかみ合い続けてしまっていることからも導かれています。この管理職負担のインフレ構造は、図表5のように図解できます。

インフレ構造は大きく分けて、「人事の個別対処ループ」と「現場のマネジメント・ループ」、「管理職人材不足ループ」という3つのフィードバック・ループで構成されます。まず1つ目の「人事の個別対処ループ」では、調査結果で示された通り、人事が組織の問題を現場にいる個々の管理職に帰責させていきます。コンプライアンスや働き方改革への対応は、多くの企業で、管理職個人の手腕・スキルで解決されようとします。こうした新たな課題への対応で負荷が増大した分、代わりに他の業務が楽になる、ということはほぼありません。

そして、会社は「管理職に変わってもらおう」と個別スキル開発中心の訓練を行います。調査でも、管理職のスキル不足を認識している人事ほど、研修を多く行う傾向が確認されています。