独自の社内評価と精密な在庫管理
1つは、ECと店舗のどちらの売上が高くても、社内評価に差をつけなかったこと。
店舗で売っても、ECで売っても、顧客にとっての便利な場所で、当社から買い物をしてくれることに変わりはない。ECと店舗、どちらが売ったか、どちらの実績になるかは社内評価の対象ではない――。
この考えが社内に周知されていた結果、店舗スタッフとEC担当者が顧客を奪い合う不毛な争いをせずに済んだのではないかと推察されます。
現在のオムニチャネルに近い発想ですが、当時はまだ「オムニチャネル」というトレンドワードが生まれる前のことでもあり、藤沢氏(当時副社長)は「チャネルレス」(店舗やEC、どこで買っても、顧客の利用価値は変わらない)と、拙著『オムニチャネル戦略』(日経文庫)執筆にあたってインタビューした際、言っておられました。
もう1つが、精緻な在庫管理の存在です。ヨドバシカメラでは1988年から在庫管理システムを導入しています。
当時、流通小売業界では、「○○の商品が倉庫にいくつあり、店舗にいくつある」といった程度の在庫管理が主流でした。一方、同社では「店頭在庫」「倉庫からの移動中の在庫(=配送トラックにある)」「倉庫内在庫」「店頭取り置き用在庫」の区分で、ほぼリアルタイムに近い状態で管理していたそうです。
この2つが整っていなければ、BOPISを実現しようにもできなかったと考えられます。2010年には店頭とECでの販売価格を統一します。
「実店舗とECは一体」という考えが奏功
その当時、筆者は「在庫一元化」「価格の統一」「店員教育」の3つがオムニチャネルの3条件だと訴えており、先の『オムニチャネル戦略』執筆時のインタビューで、藤沢氏が「価格の統一が重要だ」と身を乗り出してきた姿が印象的でした。
藤沢氏が価格の統一を進めようとしたところ、社内からは「EC上で店頭価格がわかってしまうと、(顧客が来店しなくとも、他店の店頭価格との比較ができるため)店舗への来店に影響が出る」と強い反発があったそうです。
しかしながら、同社では2007年から店内に高速通信が可能な環境を提供しておりました。そこで藤沢氏は、店頭でEC価格を調べたときに、両者の価格に違いがあっては、顧客の混乱を招く可能性があること、さらに「顧客の立場で、どちらが買いやすいか」を社内に説得して回り、統一を図りました。その苦労があったから、インタビュー時に身を乗り出してこられたのだと思いました。
2014年に、EC注文の店頭受取の24時間対応を一部店舗で開始。2017年には店頭受取専用店舗を開設しました。
こうしてみると、ヨドバシ・ドット・コムは入り口こそECですが、リアル店舗も活用してきた素地があり、「リアル店舗とECは一体のもの」であるという考え方の下、運営されてきたことがわかると思います。