人材の“ゼロサムゲーム”

話はそれるが、私は労働供給制約社会で効果的ではない解決策は、「余っている分野から足りない分野に人を動かす」などの「人を動かす」発想だと考える。

地方創生の文脈で、さまざまな移住促進施策が打たれているが、日本全体で人が足りなくなる、いわば人材の“ゼロサム、マイナスサムゲーム”なのだから、人を右から左へ動かすことで解決することはない。ある地域に人が動けば、その人が前にいた地域の人手が足りなくなるだけだからだ。

古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)

各業種の人手不足対策でもそうだ。介護人材の人手不足を介護職の働き方改革により解消したとする(もちろん介護職の働き方改革自体は重要だ)。すると何が起こるか。今度は看護師や技師などの医療スタッフが足りなくなる可能性が高い。教員不足の問題を解決しようと教員の待遇が突然よくなったとする。すると今度は警察官や消防士が足りなくなったりするのだ。

そもそも絶対的な労働供給数が足りないのだから、人の取り合いは社会全体から見た場合に有効な打ち手とはなりえない。特定の職種の待遇改善で何とかなる問題ではない、それが労働供給制約社会なのだ。

人の力を拡張する、人がいろんなシーンで活躍する、そんな新しい発想が必須だと考えるのはこういった理由がある。こういった話は具体的に近刊『「働き手不足1100万人」の衝撃』で詳述している。

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