サンマが好む冷たい海水が流れ込んでこなくなった

魚の資源研究は既存の40~50年のデータを基にしており、それ故、「分からないことも多い」ことは付け加えておきたい。これはサンマだけでなく他の魚にも共通する、資源研究者への取材の中で時折、漏れる言葉である。

川本大吾『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)

そうしたなか、サンマの資源というよりも、漁場形成そのものに大きな影響を与えているとみられるのが、日本の漁期となる夏から秋にかけての「親潮の弱体化」と、それに伴う北海道東・三陸沖の海水温の上昇だ。

サンマはこれまで、春に太平洋を北上し、秋から冬にかけて北海道東・三陸沖を南下するタイミングで漁獲されてきた。かつて親潮は、秋に千島列島に沿って北から南へ冷たい海水を運んできたが、近年は流れが弱まり、日本列島に沿って南下しにくくなっている。道東・三陸沿岸から離れるように東へ蛇行してしまうのだという。

水産研究・教育機構は、「(主に三陸沖の)北緯40~41度付近の海面水温の高い海域が、東西方向に広く帯状に形成されているため、親潮がそれを乗り越えて(日本の近海を)南下することができなくなっている」と説明する。

その結果、三陸沖などの水温は高いままで、冷たい海水を好むサンマが秋に獲れないというわけだ。少々ややこしいが、同機構はこうした親潮の南下を阻む北緯40~41度付近の「高水位偏差の壁」が、サンマ漁場を日本から遠ざけ、不漁となっている最大の海洋要因と結論付けている。

各国の競い合うような漁獲もサンマの減少の一因

このほか、同機構は、▽サンマの餌となるプランクトンの量も近年、減少傾向にある、▽分布域が沖合に偏ったため、産卵場や生育場も餌の条件が良くない沖合に移動した、▽沖合の方が(沿岸よりも)餌の密度が低いため、生育場の沖合化は成長の低下を招くだけでなく、成熟にも悪影響を及ぼしている、と分析している。

サンマの不漁要因につながる海洋環境の変化について詳述したが、ともすると「不漁が海の状況次第なら、乱獲、あるいは規制や禁漁などは関係なく、結局はサンマに適した海洋環境に戻らなければ、豊漁になることはないのではないか」と考えるかもしれない。しかし、決してそんなことはないと付け加えておこう。

同機構の研究者は、「サンマ資源が減少傾向にあるなかで、2000年以降、日本に加えて外国漁船も競い合うように漁獲してきたことや、5月ごろに中国・台湾漁船が早獲りしていたことなども、資源水準の低下を招いた要因」とみている。漁業国のサンマ漁獲にも、何らかの原因があることを忘れてはならない。

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