数学は条件を間違えば鋭い牙を剥く
純粋数学をマネーゲームに応用することは、伊藤にとってまったく想像もしなかったものでした。
そして、悲劇は突然やってきました。
2008年に起きたリーマンショック。市場の状況の予測外の変化で、世界は深刻な打撃を受けることになりました。人々がマネーゲームに明け暮れる中、ブラック・ショールズ理論の適用限界は、いつしか忘れ去られていたのです。
しかし、このことは決して、数学が悪いとは言い切れません。現実世界に応用するとき、数学は絶対的な真理というよりは、単なる道具に成り下がります。適切な条件の下であれば絶大で有益な力を発揮し、条件を間違えれば鋭い牙を剥く道具です。
世界中の数学者たちが300年以上かけて確率を研究し、あのブラック・ショールズ理論まで到達しました。それはたしかに、私たちの生活を豊かにもしたのです。
これからもさまざまな新しい数学理論が、欲望に突き動かされて生まれてくることでしょう。そして、それはきっと世界を豊かにしてくれるはずです。