大阪・堺の店舗で「ねぎ焼き」を販売する理由

――良品計画がめざすものに「個店経営」という概念があります。多くの企業が唱えながらも、小売業の歴史ではそれがなかなか形になってこなかった。良品計画がめざす「個店経営」のあり方を、もう少し詳しく教えていただけますか。

要は、品揃えと運営をどこまで店に権限を持たせていけるかということです。「地域の土着化」と言っているように、その地域に巻き込まれて、地域からも一緒になってソリューションしようと声をかけられる存在になりたいですし、品揃えは、当社のグローバル本部がつくる品揃えの中で採用するものは当然採用しながら、それ以外にもその地域で商品開発したり、その商品開発がその地域以外にも売れたりするぐらいにならなければなりません。

たとえばイオンモール堺北花田店では、難波の伝統野菜「難波ネギ」を使用した「ねぎ焼き」があります。大阪・難波で明治時代に生まれた日本最古のねぎとも言われ、栽培方法が難しく生産量は限られるものの、一般的なねぎと比べても甘みが強く、加熱することでより甘みが増してねぎ本来のうまみが存分に味わえます。それを50年以上前から生産する地元の農家さんと協業して商品化しました。

「難波ネギを使用したねぎ焼き(牛すじこんにゃく入り)」消費税込480円(無印良品公式ウェブサイトより)

金井会長が大事にする「損得より善悪が先」

出店計画も同様です。本部主導ではなく、店舗サイドが中心になって計画するべきです。その土地の道路事情や人気のスーパーマーケットはどこかといった不動産的な情報も、その地域の生活者のほうが細かく見えます。そんなスーパーさんと一緒になって店舗開発もしています。これは、従来のチェーンオペレーションに比べれば、圧倒的に現場の裁量は増えます。

だから、そうしたことができる人材を育成しなければなりません。育成ということよりも、こういうことが体に染みつくために何をしたらいいのか。なかなか簡単ではありませんが、そこを目指します。それで給料も上がって、仕事の質を変えていくことがとても大事になるでしょう。個店の経営を任されて、その経営を通じて自らを成長させて、さらに次のステージに挑める会社でありたいですね。

――金井さんが『倉本長治先生語録10選』の中で、いちばん大切にされているものはどれでしょうか。そして、それが良品計画で働く一人ひとりにどのように活かされていますか。

やはり、「損得より善悪が先」が難しい。だから大切です。その中でも、善悪の根っこにある「正直」を貫き通すことの難しさと、良品計画は誕生以来向き合ってきました。この良品計画という会社が40年以上もってきたのは、常に正直であり続けたからです。それは堤清二さんから続く当社のDNAであり、損得で曲げてはならないものです。

撮影=よねくらりょう