「使えない」と切り捨てるぐらいなら店を畳むしかない

これは、子育て中の女性たちに限ったことではない。障害や生きづらさを抱えているスタッフから、「お腹が痛くなったので、休ませてください」といったSOSが入ることも珍しくない。

夏目浩次『温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』(講談社)

でも僕は、午後3時まで懸命に働いてくれる人や、休みたくて休むわけでもない人をネガティブに捉えることはしたくないのだ。なので「今日は休みます」という連絡が入ったら、いつでも「OK!」と返事をしている。現場のスタッフにもよく言っているのは、「帰りにくい雰囲気、休みにくい雰囲気は絶対に作ってはダメ!」ということだ。

もちろん人一人が抜けた穴を埋めるのは容易ではない。困った時には各拠点が仕事やスタッフを融通し合う「横割り」でなんとかしのいでいるのが現状だ。みんなが働きやすい職場環境を作るために、新しい仲間を増やす努力も続けている。

そもそも久遠チョコレートは、働きたいのに働けない人たちが稼げる環境を用意するために作ったもの。初心を忘れて、SOSを出す人たちを「使えない」「できない」と切り捨てるようになったら、お店を畳むしかない、と思っている。

愚痴を言いながら作るお菓子よりもおいしい

うちに子育て中の女性たちが集まってくるのは、働きたいと思っても働く場所が限られているからだ。午後3時に帰らないといけなかったり、急に休んだりする女性を、「使えない」「できない」と切り捨てる企業が大半だからだ。政府が本気で子育て支援をするなら、そうした環境を変える施策こそ欠かせないのではないだろうかと思う。

久遠チョコレートで働く子育て中の女性たちは、働ける環境があること自体を「ありがたい」と感じてくれて、製造や出荷の作業に励んでくれている。繁忙期には、一度自宅に戻って家族の夕飯を作ってから現場へ戻ってくれるママさんもいる。

重度障害のあるスタッフたちが描いたアートを使用したカラフルなパッケージが魅力の商品「タブレット」出典=『温めれば、何度だってやり直せる』(講談社)より

僕は、働く人の思いは何らかの形で商品に乗り移ると信じている。

会社に恨みつらみを感じ、愚痴を言いながら働いている人が作るお菓子より、感謝しながら働いている人が作るお菓子のほうが、圧倒的に美味しいはず。誰もが働きやすい環境を作ることは、商品力の向上にもプラスだと僕は思っている。

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