日本中の海は地下水の恩恵を受けている
閉鎖性水域の東京湾。超近代的な工業地帯で囲まれた東京湾。干潟を失った東京湾。
首都圏4000万人の排水を受ける東京湾。
その東京湾が豊かな魚介類を生息させている。
これは奇跡である。この奇跡を演出したのは地下水であった。
利根川の地下水は故郷の東京湾を覚えていた。その地下水が首都の東京湾を近代化による死の淵から救ってくれた。
実は奇跡は東京湾だけではなかった。日本列島の全ての閉鎖性水域で奇跡は起きていた。
日本近代の工業化と都市化の影響を真正面から受けた閉鎖性水域は東京湾のほかに、伊勢湾、三河湾、大阪湾、有明海そして瀬戸内海がある。
これらの湾において、戦後の経済急成長時期に汚染が著しく進んだ。
しかし、21世紀の現在の水質は改善されている。
汚染された海が生き返った
理由は下水道の整備、工場の排水処理改善で説明されている。しかし、地下水の役目は語られていない。
閉鎖性水域に流れ込んでいる一級河川だけを取り上げても、伊勢湾には木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)と庄内川の流域の地下水が流れ込んでいる。
三河湾に流れ込む川は豊川だけだが地下では天竜川の地下水が流れ込んでいる。大阪湾には淀川(木津川、宇治川、桂川)と大和川の地下水が流れ込んでいる。
有明海には筑後川、菊池川、白川、緑川と地下水が流れ込んでいる。瀬戸内海には中国山地と四国山地から数えきれない河川と地下水が流れ込んでいる。
瀬戸内海は都市ビル建設で海域の砂利が掘り尽くされてしまい、海底は無残なゴツゴツした岩場になってしまった。
しかし、毎年のように襲ってくる台風の洪水が、大量の土砂を海域に供給し続け、豊かな海底が戻りつつある。
全ての河川と地下水の背景には日本列島の脊梁山脈が控えている。つまり日本列島の地形そのものが、日本列島の閉鎖性水域の汚染を生き返らせた原動力となっている。
近代化で崩壊した海域環境を回復させたのは、日本列島の地形と気象であった。
日本の地形と気象の存在が奇跡だった。