Qアノンもディープ・ステートも正体不明
あるいは、正体不明の組織が主体とされることもある。アメリカを中心に広がる「Qアノン」による陰謀説がその代表である。
Qアノンは2017年にネット掲示板に投稿して以降、アメリカの政財界は「ディープ・ステート(闇の政府)」によって操られていると告発し、トランプ元大統領は、それと密かに戦っているのだと主張するが、ディープ・ステートがどのようなものかも、Qがどういう人物なのかも、一向に明らかにはならない。少なくとも、それを信じない人間には、ただのおとぎ話である。
しかし、正体がはっきりしない分、どんなことでもディープ・ステートの陰謀とすることができる。現実に存在する組織なら、ソ連がそうであったように衰退したり、崩壊したりすることがあるが、おとぎ話のなかの組織なら、いくらでも話を盛ることができるし、永遠に存在し続けられる。
実は、こうした事例の先駆となるものが日本に存在した。
それが、2003年に世の中を騒がせたパナウェーブ研究所による「白装束騒動」である。
「陰謀を働く集団」が消えるまで陰謀論は続く
この組織は、教祖が千乃裕子であったところから、「千乃正法」とも呼ばれていた。千乃は、自分は共産主義過激派の電磁波による攻撃を受け続けていると訴え続けた。白を身にまとったり、沿道の木々に白い布を巻いたりするのは、電磁波による攻撃を防ぐためだった。
この集団については、最近、金田直久による『白装束集団を率いた女 千乃裕子の生涯』(論創社)というドキュメントが刊行された。それを読むと、千乃の死は、共産主義過激派を操っていたサタンを誘き寄せ、それを殲滅するものであったという解釈が集団のなかでなされるようになり、大勝利とされるようになったという。
そうした解釈で、会員たちが納得したのも、千乃正法では、共産主義過激派がどういう勢力かを特定せず、現実の世界ではまったく戦わなかったからである。それによっておとぎ話の世界で、すべての問題は解決されてしまったのだ。
世にはびこる陰謀論に終わりが来るとすれば、陰謀を働く集団が壊滅したことを語る物語が生まれる時かもしれない。
果たしてそんな時は訪れるのか。問題はそこにある。