冷戦時代は陰謀論も信憑性があったが…

戦後の世界には冷戦構造が成立した。西には自由主義、資本主義の社会が存在し、東には社会主義、共産主義の社会が存在した。両者は、直接武力を戦わせることのない冷戦を続けていた。それは、1989年11月のベルリンの壁崩壊まで続いた。

冷戦の時代、西側の世界で何か重大な事件が起これば、それは東側の世界の陰謀だとされた。それは東側の世界でも同様で、とくにアメリカの陰謀ということが盛んに言われていた。

現実に、西側の世界も東側の世界も、相手の勢力を弱めるために、さまざまな形で陰謀をめぐらした。そうした陰謀を働く主役となったのがアメリカのCIAであり、ソ連のKGBだった。

イギリスの「007」のシリーズやハリウッドのスパイ映画も、こうした冷戦構造の産物で、物語はソ連や東側諸国の陰謀を暴く形で進行した。

冷戦構造が続く時代、陰謀論は決してデマ情報ではなかった。真実と見なされ、陰謀によって世界が動かされているという見方は、かなりの信憑性をもっていた。

現在は「悪の根源」がいなくなってしまった

ところが、冷戦構造が崩れることで、こうした陰謀論は成り立たなくなった。それは、ハリウッド映画の世界に混乱をもたらし、どこに悪を求めていいかがはっきりしなくなった。一時は、イスラム教の過激派が敵として想定される時期があったが、それは共産主義国家のような巨悪ではなく、その分過激派を敵として描いた映画はどうしてもスケールが小さくなり、あまり面白いものではなくなった。

陰謀論がとくに指摘されるようになったのは、冷戦構造が崩壊し、さらには、イスラム教原理主義過激派によるテロが頻発しなくなってからである。

もちろんそこには、インターネットとSNSの普及が関係しているだろうが、根本には、悪の根源を見つけにくくなったことが影響している。

世の中では、善いことも起これば、悪いことも起こる。善いことについては、あまりその原因を突き詰めて考えたりはしない。ところが、悪いこととなれば、その状態が続くこと、あるいはそれが再び起こることに不安を感じ、なんとか原因を知りたいと考える。

そこに陰謀論を受け入れてしまう心理が生まれるわけだが、現代の陰謀論の特徴は、陰謀を働く主体がはっきりしないことにある。地震兵器を誰が作り、誰が使ったのか。岸田政権の窮地を救うためなら、日本政府ということになるが、人工地震を引き起こした主体がはっきりと指摘されることはなかった。