米ギャラップが昨年6月にまとめた報告によると、日本人の仕事に対する熱意は世界最低レベルで、仕事に熱意や愛着を感じると答えた人はわずか5%だった。仕事への「積極的な不関与」を実践する人は25%にも達した。そうした勤務態度は組織にとってマイナスになる。

日本の従業員は、「自分には変えることのできない職場に捕らわれ、抜け出せないと感じている」と、ギャラップ東南アジア・日本地域ディレクターのカニカ・シンは指摘する(旧ジャニーズ事務所もそうした性質の職場だったのかもしれない)。

旧日本軍から続く悪しき伝統

同時に、日本の若者はこれまで以上に個人主義的になり、社会から孤立している。SNSのおかげで不満を吐き出したり、遠く離れた場所に共感し合える仲間を見つけたりすることはできるが、親の世代よりも選挙に投票したり、抗議デモに参加したりする意欲は乏しい。

内閣府が22年末に実施した「社会意識に関する世論調査」によると、地域とのつながりを重視する若者も大幅に減っている。18~29歳では、「地域での望ましい付き合い」のレベルは「挨拶をする程度」と答えた人が36.4%と最も多かった。

これに対して、40~50代つまりおおむね「昭和世代」では「地域の行事や会合に参加したり、困ったときに助け合う」レベルが望ましいという答えが最多だった。

見方を変えれば、これは企業が若者にとって社会との重要な接点になる可能性を示している。だが企業が改善するべき点は多い。

厚生労働省が20年に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、パワハラやセクハラを経験した後、誰にも相談しなかった人は35%を超えた。また、勤務先に通報しても、「特に何もしてくれなかった」と答えた人はパワハラで47%に上った。

日本型組織に関する資料として一橋大学の小野が挙げるのが、太平洋戦争時の日本軍の敗因を分析した『失敗の本質』(中公文庫)だ。6人の学者からなる著者チームは、極めて均質で閉鎖的な軍上層部の決定が、日本軍という巨大組織を間違った方向に率いてしまったことを論じている。

なまじ緒戦で勝利を上げたために日本軍上層部は、その後さまざまな戦線で敗北を喫しても戦略を見直そうとしなかった。また陸・海・空という組織がそれぞれ縦割りで「サイロ化」しており、横断的な情報共有がなかった。

これとは対照的に、米軍の海兵隊は陸・海・空の三部隊を融合した組織であり、前線と司令部が活発に意思疎通を図り、実力主義に基づく昇進を奨励し、戦略を適宜見直した。とりわけ真珠湾攻撃で戦艦の大きな損失を被ったことが、空母と戦闘機を中心とする組織の再編を促した。日本海軍は、こうした米軍の戦術のシフトに対応できなかった。

専門家は、日本型組織の行動を変えるため、トップと従業員の意識のギャップを解決する必要があると指摘する。いわゆる「空気を読む組織」になるのではなく、お互いに正直なフィードバックを頻繁にやりとりすることが重要だというのだ。

『失敗の本質』の著者の1人で、世界的に有名な経営学者である野中郁次郎は、日本企業の組織構造には情報の冗長性が組み込まれていると指摘する。「組織全体やその活動に関する情報」が、組織のメンバー間に「意図的に重複共有」されていたというのだ。

このため複数のチームが同一プロジェクトに取り組み、組織内で競争と知識創造が促された。人材は戦略的ローテーションにより数十年かけて育成され、ノウハウが集団的に蓄積され、そのおかげで世界に冠たる技術と成長を実現できた。

だが今、人口動態の変化と人々の考え方の変化は、従来の日本型組織の在り方に変化を迫っている。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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