昨年4月には、性的少数者への偏見・差別解消を目指す「東京レインボープライド」のイベントに、大手企業の幹部を含む20万人以上が参加した。10月に東京で開かれた「LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)」のイベントには、国会議員や東京都の小池百合子知事、俳優の鈴木亮平といった面々からメッセージが寄せられた。

同性婚の法制化に賛同する企業を可視化することを目指すキャンペーン「ビジネス・フォー・マリッジ・イクオリティ」(LLANを含む3つの団体が共同で運営)によると、昨年11月の時点で、同性婚の権利の法制化に賛同すると表明した企業・団体は456に達している。

仕事への熱意は世界最低?

東京で働く千葉県出身の20代、高橋洋輝は、このような潮流の恩恵を受けているといえるだろう。外資系の人材紹介会社ロバート・ウォルターズに勤めている高橋は、同性愛者であることを公表しているイギリス人男性の上司、そしてアライ(性的少数者の理解者・支援者)である同僚たちと一緒に働いた後に、カミングアウトした。

「この職場では最初から、同性愛者の男性であることに不安を感じたことがない。ずっと心理的安全性があった」と、高橋は言う。

しかし、同性愛者への偏見が日本社会から消えたわけではない。性的少数者のほとんどは、逆風を恐れてカミングアウトしていない。日本企業で働く人は、特にその傾向が強い。

宮崎県出身の20代のH(仮名)がある友人にカミングアウトしたときには、こんな言葉が戻ってきたという。「へー。見た目は普通なのに」。Hはこれまで2人の同僚に同性愛者だと打ち明けたが、今後はもう職場でカミングアウトするつもりはない。

DEIの専門家によれば、多くの企業が毎年ダイバーシティ研修を実施しているが、自分の経験を自発的に語る従業員はほぼいない。このため、性的少数者を自任する人が人口の10%程度に達し、企業が積極的な取り組みをしても、依然としてマイナーな問題と見なされている。

これに関しては経営幹部のサポートが決定的に重要だと、法律事務所フレッシュフィールズブルックハウスデリンガーの中尾雄史・東京オフィス代表パートナーは語る。「同性愛者であることがキャリアを傷つける可能性が0.1%でもあれば、誰もカミングアウトしたがらない」

中尾はLLANの理事を務めるが、勤務する事務所のパートナー(共同経営者)になるまでは、自分の性的指向を職場で明かさなかったと言う。「全ての上司と同僚が私のことを、ストレート(異性愛者)の弁護士と同じように優秀な仲間だと認めてくれるまで待ちたかった」。

ついに中尾がカミングアウトすると、同様の行動を起こす弁護士が続いた。

アフターコロナの職場では、必要最低限の仕事しかしない「クワイエット・クイッティング(静かな退職)」が世界的なトレンドになったが、日本のように終身雇用が根強い文化圏では、仕事にやる気を感じない従業員は珍しい存在ではない。