月に一度、城や古戦場で戦場の距離感を味わう
小泉はリフレッシュを兼ねて、月に一度程度、家族か夫婦で旅をする。行き先は、決まって城や古戦場だ。
きっかけは経営企画部長時代。経営についてMBA的な本を読んで勉強しても「何か違うなと思って、ふと訪ねたのが関ヶ原」。以来、10年ほど続けている趣味でもある。
「関ヶ原でも姉川でも壇ノ浦でもいい。実際に舞台となった古戦場に立ってみると、有名な武将の息なのか、名もない戦士の息なのかわかりませんが、当時の息づかいを感じます。現場だからこそ感じられるものがあるんです。そりゃあね、家族は嫌がりますよ、『こんなとこに来て何がおもしろいのよ』って(笑)」
関ヶ原では実際に家族を巻き込んで石田三成らの動きをまねてみる。戦場の距離感を味わうためだ。「ここで裏切られるのか、などと思いを馳せる。その臨場感がたまらない」。“現場”の醍醐味について、乗り出すように語る小泉の言葉は熱い。
その熱を帯びた言葉で営業所や工場の社員と語り合う。つい先日も、焼き肉屋で食事をしていたところ、若いサラリーマン6人組に声を掛けられた。JTの支店勤務の営業マンたちだった。一緒に乾杯してほしいと請われ、6人分、マッコリを続けざまに6杯飲みほし、メビウスのシェア拡大を約束し合った。
小泉には、うどん工場もたばこ営業所も関ヶ原も同じ現場。戦士たちの息づかいを感じ取る場所なのだ。そこできらりと輝く滴の一つ一つを見守ってきたからこそ、それらが大河となったときに自信を持って大きな決断を下すことができる。小泉流経営の流儀が、そこにある。
1957年生まれ。神奈川県出身。県立平塚江南高校卒。81年東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)入社。2001年経営企画部長、03年執行役員、06年常務執行役員、07年取締役兼常務執行役員、09年副社長を経て12年6月より現職。
(文中敬称略)