自分はアメーバ…そんな気持ちが息子への厳しさに
孤独なフィリップは叔父のマウントバッテン伯爵のコネで英国海軍に入り、遠い親戚である女王と知り合う。女王は金髪、碧眼、長身のフィリップに一目惚れしたのだ。
フィリップは名門王族の出で、大英帝国の最盛期を築いたビクトリア女王の子孫でありながら、爵位もないほとんど無一文のギリシャ人。女王は周囲から結婚を反対されるが、初恋の相手を伴侶に選ぶ姿勢を貫く。
結婚当初は海軍将校夫人として、普通の専業主婦をしていた女王だったが、25歳の時に穏やかな生活は突然終わりを迎える。父のジョージ6世が、肺がんにより56歳で崩御したからだ。
それはフィリップにとっても大きな転機だ。なぜなら、夫に従順な専業主婦だった妻の後ろを、今後歩かなければならなくなったからだ。それは“男の中の男”を体現する海軍将校として我慢ならないこと。しかも彼の天職も海軍の職も奪われた。
また、当時のイギリスは子供の姓は父方を名乗るのが一般的だったが、自分のマウントバッテンではなく、妻のウィンザーに決められた(のちにマウントバッテン=ウィンザーとなるが)。「自分は王家のアメーバに過ぎない」と『ザ・クラウン』の中のフィリップは嘆く。
「カミラが忘れられないなら…」という父の悪魔の囁き
そのうっぷんを晴らすかのように、長男チャールズを厳しく教育。本人は否定しているが、美しいバレリーナらと浮名を流し、女王を深く悩ませたとも言われている。
そして、チャールズとダイアナの結婚時には、フィリップは、現王妃のカミラ・パーカー=ボウルズ(76)への想いを断ち切れない息子に、ある言葉をかける。
「結婚して8年経ってもカミラが忘れられないのなら、彼女のもとへ戻ればいいさ」と。
これは悪魔のささやきかもしれない。長男ウイリアム王子を授かった後は、幸せそうにも見えたチャールズとダイアナだったが、次男ハリー王子(39)が生まれた後は、仲が冷え切ってしまった。
のちにチャールズは「ハリーが生まれるまでは、妻への貞節を守っていた」と弁解したが、その後の浮気を肯定したようなもの。さらには「愛人を持たない最初のウェールズ公になりたくない」とダイアナ妃に対して開き直ったそうだ(ウェールズ公は皇太子の意味。ドキュメンタリー『Diana in her words』より)
英国国王は伝統的に「ロイヤルミストレス」という誰もが公認の愛人を持っていたからだ。