マッチョなフィリップは内向的なチャールズにイライラ

スポーツ万能、マッチョな海軍将校だったフィリップは、内気な文学青年のチャールズを、「よかれ」と思って鍛えようとする。いつの日か英国国王になる息子には心身ともに強くあってほしかったのだ。しかし、ある意味荒々しい躾はチャールズだけに行い、スポーツ万能で快活な長女のアン王女(73)を「スウィーティー」(愛しい子)と呼んで溺愛した。

なお悪いことに、母のエリザベス女王もまた、公務の多忙さゆえか、元々の性格ゆえか、我が子にわかりやすい愛情を注ぐ人ではなかった。ジャーナリストのケイティ・ケリー著『Royals』によると、子供たちを置いて長い外遊から帰った後、母に駆け寄った幼いチャールズにそっけない態度をとったそうだ。また「私は母に抱きしめられたことがない」とチャールズは英メディアに語っている。

チャールズ3世の硬貨
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『ザ・クラウン』では、30代後半になってさらに子供を欲しがる女王に対し、フィリップの親友が「未来の王位継承者のチャールズは、女王の死後を想起させる存在。そんな(複雑な)子供ではなく、彼女は単なる子供が欲しいのさ」と言及するシーンも。実際、王室伝記家ロバート・レイシー著『Battle of Brothers』によれば、チャールズより12歳離れた次男のアンドリュー王子(63)は、女王のお気に入りだった。

とはいえ、女王も王配も、チャールズを愛してないわけではないだろう。だが、愛情表現が下手くそだ。それではチャールズは「自分は親に愛されていない」と思ってしまうのも、むべなるかな。しかしフィリップもまた、満たされきれない“餓え”を感じていたのだ。

父は愛人と夜逃げ、母は統合失調症でサナトリウムへ

フィリップは、クーデターで追放されたギリシャ王家の傍系の長男だ。彼の一家が外国に亡命した後(フィリップは果実の箱に隠れて亡命したそう)、父は愛人とモナコに逃げ、そのまま子供たちと会うこともなく逝去。母は亡命や夫の浮気などが原因で次第に精神を病み、統合失調症を発症し、サナトリウムに長期入院する。

フィリップの3人の姉たち全員がドイツのナチ関係者に嫁いでいたため、彼は一人ぼっちに。温かい家庭というものを知らずに過ごした。さらには、生前の父からかなり冷たくあしらわれたようだ。

『ザ・クラウン』では、飛行機事故で亡くなったフィリップの姉の死について「お前のせいで(姉は)死んだのだ」と、父からなじられるシーンが悲しい。