ドラマには光源氏は登場しない
気になっていたのは、1年間のストーリーの中で『源氏物語』をどう使うのか、ということでした。タイトルからして光源氏に寄せてますから、劇中劇やリアルと虚構の1人2役、アニメやイラスト等々、登場の仕方はいろいろ考えられました。
が、年末近くになっても光源氏のキャスティングが発表されないので、これはないな、と思いました。結局、NHKの制作統括の人が会見で「劇中で『源氏物語』は扱わない」と明言しましたね。
もっとも光源氏というキャラクターが、もしかしたらストーリー中の何かのキーになるかもしれません。というのも、複数いたと言われている光源氏の実在のモデルの1人が、何を隠そう道長なんです。『あぶさん』や『ドカベン』に出てきた実在のプロ野球選手みたいに、『源氏物語』に道長が堂々と主役で出ていると考えたら面白いですね。
時の最高権力者ですから、光源氏とまではいかずとも道長はモテたでしょうし。実は実際に会ったことが、わからないように物語の中に織り込まれてるのかもしれません。
ともあれ、「光る君へ」を楽しむに当たっては、『源氏物語』の登場人物やあらすじはひとまず置いて、この時代の歴史をまず頭に入れておけばいいのではないかと思います。ボクが勝手に出した3冊目の大河ドラマ解説本『松村邦洋 まさかの「光る君へ」を語る』は、そこに焦点を絞りました。大変でしたけど(笑)、ものすごく勉強になりましたよ。
平安時代は「争いのない平安な時代」だったのか
「平安時代の西暦1000年前後とはどんな時代か?」と聞かれてすぐに答えられる人は多くはないでしょう。一言で言えば、藤原氏の全盛期です。藤原氏の元祖は645年の乙巳の変(と大化の改新)で、中大兄皇子と一緒に蘇我氏を滅ぼした中臣鎌足。そこから飛鳥、奈良、平安時代にかけて他のライバルたちを得意の謀略でどんどんつぶしていきます。やられた面々には長屋王や弓削道鏡、菅原道真がいますね。
そして「光る君へ」の時代には、藤原氏のライバルはもうほとんどいなくなっていました。だから登場人物には、姓は省略されていても「藤原さん」が山ほどいます。では、争いのない平穏な時代だったのかというと、そうではなかったんです。